◆ことばの話150「親孝行者」

夏の甲子園が始まりました。以前ほど心がときめかなくなったのは、それだけ高校球児と年令が離れてきた所為(せい)でしょうか?

その甲子園の開会式を、カー・ラジオで聞いていた時のこと。

まず、球児たちの入場行進の案内を会場でやっている高校生の紹介で「いばらぎ県代表・ 水戸商業高校!」と言うのを聞いて、「ああ、“いばら”って濁ってるなあ」と職業的に思いました。

茨城県、正しくは「いばらき県」と濁らないのです。もちろん大阪の「いばら(茨木)」も濁りません。もっとも、地元の人で濁って発音する人はいますが。

それはまあアマチュアの高校生ですから、別にどうということはないのですが、そのあとの某N局の男性アナウンサーのリポートが引っかかりました。開会式直後の試合に登場するチームの選手のお父さんのコメントを紹介して「お父さんは、開会式と試合を一緒に見せてくれるなんて息子は本当に親孝行者です、と話していました。」というもの。

親不孝者というのは聞いたことがありますが、親孝行者というのは初めて耳にしました。

これは、もし選手のお父さんがそう言ったとしても「息子は本当に親孝行です」で良いのではないでしょうか。もしくは「本当に孝行息子です」。これなら聞いたことがあります。

なんとなく運転席でハンドルを握りながら、お尻がくすぐったくなりました。

けど、もしかしたら、親不孝者が今は少なくなっているのかもしれません。(親の知らないところで「不孝」なことをしているだけだったりして。)

2000/8/8


◆ことばの話149「暦の上では」

今日、8月7日は「立秋」でした。暦の上では今日からもう「秋」なんですね、むちゃくちゃ暑いけど。

今日のお昼のニュースの原稿にも「暦の上では立秋ですが・・・」とありました。

しかしちょっと待って!「暦の上では立秋ですが」って、おかしくないかい?

「暦の上では秋ですが」ならわかります。“秋”とは言え、実際はまだまだ暑いんですし。しかし、「暦の上では立秋ですが」って、ほかの、なんの上なら「立秋」でもOKなわけ?
暑いと、ついつい、どうでも良いこと(?)にまで突っ込みを入れたくなりますよね。

さてこの「暦の上では」に関して、“日本語の「大疑問」”(講談社)という本の中で触れているところがあります。池上彰さんというNHKの子供向けニュースのキャスターをしている方が書かれたものです。その中に「“暦の上”とはどんなカレンダー?」という項目があります。「立春」のニュースに出てくる「暦の上では春を迎えましたが・・・」というフレーズを子供向けにわかりやすく言い直す努力を、池上さんはされたのです。その際に使った表現は

「中国から伝わった昔のカレンダーの言い方で、この日になると春になると

考えられています。」


という形になったそうです。

この「中国から伝わった昔のカレンダー」とは、なんなのか?太陰暦のことなのか?

分からなかったので、当の池上さん宛てに手紙を出したところ、丁寧なお返事をいただきました。それによると「二十四節気のことを指しています。」ということでした。

確かに「二十四節気」と言ってもなかなか今は分かりませんよね。「立春」「春分」「夏至」「立秋」「秋分」「冬至」などは知っていても、それが「二十四節気」だということを知っている人は、実はそう多くないのかもしれません。(しかも「にじゅうしせっき」と読むということも)

数年前までは、読売テレビのニュース原稿でも「今日は“二十四節気”の一つ、雨水(うすい)です。」などと書いていましたが、最近はあまり「二十四節気」を見なくなったなあ、と思っていました。やはり農業と密接な関係のある「二十四節気」は、都市生活者が農業と疎遠になるにつれて、意識から遠ざかって行くのでしょうか。

2000/8/7

(追記)

二十四節気、全部言え・・・ませんよね?広辞苑を引きました。ご参考までに。

 1、立春・・・ 2月 4日頃(以下すべて概略日付)
 2、雨水・・・ 2月19日
 3、啓蟄・・・ 3月 6日
 4、春分・・・ 3月21日
 5、清明・・・ 4月 5日
 6、穀雨・・・ 4月20日
 7、立夏・・・ 5月 6日
 8、小満・・・ 5月21日
 9、芒種・・・ 6月 6日
10、夏至・・・ 6月22日
11、小暑・・・ 7月 8日
12、大暑・・・ 7月23日
13、立秋・・・ 8月 8日
14、処暑・・・ 8月24日
15、白露・・・ 9月 8日
16、秋分・・・ 9月23日
17、 寒露・・・10月 9日
18、 霜降・・・10月24日
19、 立冬・・・11月 8日
20、 小雪・・・11月23日
21、 大雪・・・12月 8日
22、 冬至・・・12月22日
23、 小寒・・・ 1月 6日
24、 大寒・・・ 1月20日

*ちなみに二十四節気は、立春から始まります。



◆ことばの話148「二人組」

先日、視聴者のKさんという方から質問のメールを頂きました。

質問の内容は「ニュースなどでよく“ににんぐみの強盗が・・・”と言っていますが、なぜ“ふたりぐみ”と言わないんでしょうか?」というものでした。

そのお答えとして出したメールをここに御紹介しましょう。

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Kさん、メールありがとうございました。

昨日、ニューススクランブルで「平成ことば事情」を担当した、アナウンサーの道浦俊彦です。

現在私は、日本新聞協会の放送用語懇談会の委員も務めていて用語担当なので、「ににんぐみ」についてお答えします。



日本新聞協会が出している「新聞用語集」では「ににんぐみ」も「ふたりぐみ」も両方認めています。

これに対し、日本テレビが出してる「放送で使う言葉」(これは日本テレビ系列の読売テレビをはじめ各局がこれに準拠しています。)によると、1番目に「ににんぐみ」2番目に「ふたりぐみ」をあげています。

読売テレビのアナウンス部では「ににんぐみ」と読むよう指導しています。

NHKもそうだと思います。これに対し、関西テレビは「ふたりぐみ」だと思います。

一般的には「ふたりぐみ」のほうが、今は普通だとは思いますが、もともと「ににん」と読むものには「ににんさんきゃく(二人三脚)」「ににんばおり(二人羽織)」などがあります。「二人組み」ももともとは「ににんぐみ」とよんでいたのですが「二人」の部分が「ふたり」と読めることから「ふたりぐみ」という言い方が広がったものと思われます。



今、広辞苑を引いてみると、「ににん」の読みのものは「二人比丘尼(ににんびくに=仮名草子)」「二人道成寺(ににんどうじょうじ=歌舞伎舞踊の一つ)」「二人椀久(ににんわんきゅう=歌舞伎舞踊の一つ)」「二人張り(ににんばり=二人掛かりで弦を張るほど強い弓のこと)」がありました。やはり、古くは「二人」を「ににん」と読む方が普通だったのでしょう。



放送のニュースで使う言葉は、口語(話し言葉)ではありますが、もともと書き言葉の新聞用語から始まっている為に、中には「古い」と感じられる用語がまだまだたくさんあり、結構それで定着しているものも多いのです。だから、比較的新しいものを取り入れがちな放送局と、そうではない保守的な局で同じ用語の読みも違ってきたりするのです。

全体的に見れば、最新の用語を取り入れるよりは、伝統的な用語を守ることが多いといえるでしょう。



たとえば、数字の「0」は、ほとんどの局が日本語である「レイ」と読むことを標準としています。電話番号の中でもフリーダイヤルなど、仕方がない場合のみ英語読みの「ゼロ」と読んでいます。

一般社会では「レイ」と読むことの方がまれでしょう。



今後各テレビ局で「ににんぐみ」か「ふたりぐみ」かどちらを使っているか、気をつけて聞いてみると面白いかもしれませんね。



長くなってしまいましたが、今後とも読売テレビ、ニューススクランブルを、よろしくお願いします!



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と言う内容のお返事メールを出しました。

今日も読売テレビは「ににんぐみ」でやってますし、関西テレビは「ふたりぐみ」でやっていました。

ただ、解説委員の辛坊さんによると「先日、日本テレビが“ふたりぐみ”って言ってたゾ!」 ということですので、もしかしたら、近々何か動きがあるかもしれません。(私は、日テレの人が単に間違っただけだと思いますが。)

2000/8/8


◆ことばの話147「野宿者」

大阪・天王寺で、ホームレスの男性を若者が襲撃する事件が起きました。

そのニュースを伝えた新聞各紙の「ホームレス」を表わす見出しが微妙に違っていました。



読売・・・野宿者(本文では、野宿者の男性)

朝日・・・野宿者

産経・・・野宿者(本文では野宿生活者)

日経・・・天王寺の男性(本文では、野宿者)

毎日・・・路上生活男性(本文では、路上生活者の男性)


おおむね「野宿者」となっていますが、毎日は「路上生活者」となっています。また、読売は夕刊の3版では「野宿生活者」を使っていたのが、4版では「野宿者」になっています。ちなみに、読売テレビでは「ホームレス」を主に使いました。(翌日のニュースではなぜか“野宿者”を使ってましたけど。)

一般的には「ホームレス」が一番耳になじんでいると思いますが、実はこの「野宿生活者」 はお役所用語なのです。

つまり大阪市がホームレス対策を扱っている部署の名前が「野宿生活者対策室」なのです。

読売が3版でこの「野宿生活者」を使っていたのに、4版で「野宿者」にしたのは、また各社「野宿者」という言い方をとったのは、お役所(=大阪市)の手垢のついた言葉(=野宿生活者)を避けた結果ではないでしょうか?

ちなみに各自治体などによって、呼び方は異なります。具体的には、



国=「ホームレス」

大阪市=「野宿生活者」

東京都=「路上生活者」

横浜市=「屋外生活者」

名古屋市=は「住所不定者」




という具合です。

ちなみに「路上生活者」と言った場合は、「大阪城公園」や「長居公園」に住む人たちは含まれるんでしょうか?厳密に言葉を解釈すれば「含まれない」ことになるんですが、その場合は「公園生活者」など、具体的な「場所の名前」を「〜生活者」の前につけて呼ばなくてはならなくなり、一般名詞としては面倒くさいことになりはしないでしょうか?



ホームレスの人たちを生み出す社会状況に目を向けるけることはもちろんですが、こういった用語の使い方に目をむける事も大切だと思います。

2000/8/8

(追記)

なんと7年ぶりの追記です。
2007年4月7日の読売新聞朝刊に、
「ホームレス平均57.5歳」
という見出しが出ていました。厚生労働省が今年1月に、
「ホームレス自立支援特別措置法」
に基づき実施した、公園などに野宿するホームレスの実態に関する全国調査の結果が、4月6日に公表されたのです。
それによると、ホームレスの数は全国552市区町村で、1万8564人確認され、前回2003年の調査よりも27%減ったとのことです。都道府県別では大阪府の4911人がもっとも多く(それでも前回調査より2846人も減少したそうです。これは36.7%の減少です)、ついで東京との4690人。意外にも、あまり差がありません。もっとダントツで大阪が多いと思っていたのですが。この二つの都府で、全体の過半数を占めるということです。そうか、「ホームレス」というのは、
「都会に特有の現象」
なんですね。市区単位で全国最多は、大阪市で4069人(38.4%減少)。ほら、大阪府全体で4911人だけど、そのうち4069人(82.9%)が大阪市なんですよ。都会でしょ。大阪市では、都市公園のホームレスが、前回の2061人から904人に減ったということです。公園から追い出したんだね。


2007/4/8


◆ことばの話146「ITその後」

今年2月に「I T」というタイトルでこのことばの話を書きました。「情報テクノロジーと言えばいいのに、アルファベットの略号を振り回すやつには注意しろ・・・」と。

それから半年、すっかり「I T」は定着しましたね。なんたって例の森総理が「IC」と言い間違うくらい・・・。それはさておき、今回は「I Tが氾濫し過ぎではないか!?」と言うことです。

今朝(8月7日)の朝刊の小さな記事を見て「おや?」と思ったのです。

その記事の見出しは



「都市浸水被害、I T使い防止〜建設省方針」



記事の内容は「建設省が局地的な集中豪雨による地下街などへの浸水被害をIT(情報技術)を利用した情報管理システムを大都市に整備する方針を決めた」というもの。

あのねー、別に「I T」なんて言葉を使わなくても表現できるじゃない。

なんでもかんでも「I T」を使えばOKという風潮はちょっとおかしいんじゃないでしょうか?たとえばこんな感じ?



「景気回復にI T導入!」

「リストラもI Tで解決!」

「タイガース、I Tで最下位脱出!!」


などなど。タイガースはID(野球)だっけ。

「I T」とさえ書けば、なんとなく分かったような気になって、うーん、そうかと納得してしまわないように注意しましょうね。

まあ、中には「I Tって“それ”っていう意味なんでしょう?」と思っている人もいるそうですけど。

「それ」は違うと思うよ。

2000/8/7

(追記)

今朝(8月8日)の朝刊に出ていた週刊誌「YW(ヨミウリ・ウイークリー)」の広告に「IT時代に見直されるアナログ派」という記事がありました。

「IT」、やっぱりあやしいよな。けど「YW」ってのも・・・。(前は「週刊読売」と漢字だったんですけどね。)まあ、しゃーないか、ローマ字になっても。全ての文字はローマ字に通ず?

2000/8/8

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