◆ことばの話145「コールコーヒ」

ニューススクランブルの取材で須磨海岸に行きました。熱中症の取材です。つまり、日射病や熱射病についてなんですが。

海水浴や甲羅干しをしている人たちにインタビューなどをし終わって、午後の3時ごろ、ようやく昼食をとろうとスタッフと浜茶屋に入りました。

そこの天井付近に大きく掲げられたメニューを見ると、おなじみの「カレー」「牛丼」などに並んで「アイスコーヒ」という文字が目に入りました。

「コーヒー」ではなく「コーヒ」なのです。大阪人は語尾の長音を省略することが確かに多いので「コーヒ」はそれほど不思議ではないのですが、その店に3枚あったメニュー看板のうち、2枚が「アイスコーヒ」で、1枚だけが「アイスコーヒー」となっていました。良く見ると、明らかに「アイスコーヒー」の方が拙(つたな)い字なのです。 「ははあ、1枚は若い人が書いたので“アイスコーヒー”と“ー”が語尾にも入っていて、残りの2枚は達筆な年配の人が書いたので「コーヒ」と「ー」がないのだな」と想像しました。

カレー(これはちゃんと「ー」がついていました)を食べ終えての帰り道に、別のお店のメニュー看板が目に入りました。

そこには「コールコーヒ」とありました。「コールコーヒー」自体が大阪弁ですが、さらに語尾の「ー」も省略して「コーヒ」となっているところが、さらに輪を掛けて大阪的(こう言うと、神戸の人は怒るのですが)ですねえ。

“大阪人は語尾の長音を省略するのだ”と確信を高めて、ふと横のメニューを見ると、何とそこには

「ファンター」

と書いてあるではありませんか!!

うーん・・・そうか、「コーヒ」で要らなくなった「ー」を「ファンタ」の後ろにつけたのか・・・!?

大阪の人は、長音の「ー」が二つついていると、うっとうしいけど、一つは付いていないと気がすまないのかな?謎に包まれた、須磨海岸の夏の日の出来事でした。

2000/8/7
(追記)

正に「10年ぶり」の追記です。
2010年6月24日の産経新聞「日本発 アイデアの文化史」の『缶コーヒー・下』磨井慎吾記者は、缶コーヒーの登場は、喫茶店で飲むコーヒー、社交場=メディアとしての「コーヒー」を終わらせ、「個人消費」へと向かわせたと記しています。その記事には大きな白黒写真が載っていて、そこには、
「コーヒーの文化的イメージを強調するコピーを掲げたUCC上島珈琲の営業車(昭和30年代初め)」
が映っています。その「営業車」(広島営業所)の横っ腹にかかれたコピーは、
「文化人はコーヒがお好き」
です。「コーヒー」ではなく、
「コーヒ」
でした。「長音符号」が2回続くのは嫌われていたのですかね?

2010/7/25


◆ことばの話144「二女」

奈良県天理市の病院に入院していた長女を、准看護婦の母親が毒殺しようとしたとされる事件が世間を騒がせています。食中毒に毒薬と、気を抜く暇もありません。しかも、数年前には、長男と二女も同じような症状で亡くなっているというから、話はさらに異様な様相を見せています。

その中で、「ことばの話」で注目は「二女」です。

新聞各紙を見比べると、どの新聞も「二女」となっていて、朝日新聞のみ「次女」という表記です。

普通、私たちが見慣れているのは「次女」の方だと思うのですが、日本新聞協会の「新聞用語集」によると、新聞では「二女」を使う、となっています。その部分を引用すると、

「二=ジ=」は表外音だが、戸籍法の、続き柄表示に合わせて「二女」とする。一般には「次女」も使われる。

とあります。当然、「次男」→「二男」で、同じ注釈がついていました。

全国五紙のうち、唯一「次女」を使っている、朝日新聞大阪本社の中山校閲部長にお聞きしたところ、

「“朝日新聞の用語の手引き”によると“二”の読みの“じ”は表外音(常用漢字表にない読み)なので、便宜的に“次”を充てている」

とのことです。

似たような例としては、被疑者を拘置所に留め置くことを 「勾留」といいますが、「勾」が表外字なので使えず、さらに「勾」をひらがなにして「こう留」と「混ぜ書き」にすると、30日未満の自由刑の「拘留」と区別がつきにくいことから、「新聞用語集」では、「拘置」という言葉を「勾留」の代わりに使っています。しかしここでも、朝日新聞とNHKは、あえて「勾留」をルビつきで使っています。

このほか、専門用語と一般用語では読みが違うものには、たとえば、「遺言」「競売」などがあります。それぞれ、専門用語では「いごん」「けいばい」ですが、一般的には「ゆいごん」「きょうばい」であり、放送でも一般的な読み方を採用しています。

話は元に戻りますが、「二女」だと「にじょ」と読んでしまう可能性もでてきますし、戸籍法は当然「話し言葉」ではなく「書き言葉」として「二女」を使っていますから(新聞はともかく)放送では(字幕も含めて)「次女」を使った方がいいのではないか、と私は思います。

ちなみに、私は長男です。

2000/7/18


◆ことばの話143「さびくさい」

このところ、食中毒や異物混入など食物や飲料に対する「異常事態」が続いています。

普段あまり気にしなかった人までが「ちょっと、おかしいのでは・・・」と過敏になっているということもあるかもしれませんが、やはりメーカー側の普段からの衛生管理が“ずさん”だったというのが、もっとも大きな原因であることには変わりはないでしょう。

さて、この週末にもそういった事件がいくつか相次ぎました。そのうちの一つに、スポーツ飲料「スピード」があります。消費者から「異臭がする」という苦情が相次いだため、回収することになったそうです。そのニュースを報じる各紙の表現の中に「さびくさい」というものがありありました。

朝日「さびくさい」「気分が悪くなった」などの苦情が・・・

毎日「味が粘っこい」「さびくさい」などの苦情が相次ぎ・・・

産経「異臭」「さび臭い」「シンナーみたいなにおいがする」

日経「いつもと味が違う」

読売「味やにおいがいつもと違う」

ということで、主要5紙のうち3紙が「さびくさい」を消費者からの生の声として伝えています。しかし私は「かびくさい」は聞いたことがありますが、「さびくさい」は(俗語として使わなくもないですが)新聞紙面で活字としてみると、何かしっくりしない感じがしてなりません。鉄分を補給していた・・・という訳ではもちろんないんでしょうし。

辞書を引いてみても「かびくさい」は項目として立てられていますが「さびくさい」はありません。(広辞苑)

「〜くさい」は、「〜のようなにおいがする」という場合に「何か」を頭に持って来てそのあとに「くさい」をくっつけて、「〜くさい」と言います。

「牛乳くさい」「油くさい」「あせくさい」などがすぐに思いつきますが、ここでこの前使った「逆引き広辞苑」を使ってみましょう。

「〜くさい」だと逆から読んで、「いさく」でひけば良いのです。 と、ありましたありました。思った以上にありますよ。

「青ぐさい」「汗くさい」「阿呆くさい」「いきれくさい」「磯くさい」「田舎くさい」「陰気くさい」「胡散(うさん)くさい」「白粉(おしろい)くさい」「男くさい」「金(かな)くさい」「黴(かび)くさい」「紙子(かんこ)くさい」「きなくさい」「けちくさい」「焦げくさい」「酒くさい」「七面倒くさい」「自慢くさい」「邪魔くさい」「洒落(しゃら)くさい」「熟柿(じゅくし)くさい」「小便くさい」「素人くさい」「辛気くさい」(これは辞書には“心気くさい”とあります)「血くさい」「乳(ち、ちち)くさい」「土くさい」「照れくさい」「とろくさい」「泥くさい」「鈍(どん、のろ)くさい」「生臭(ぐさ)い」「糠味噌(ぬかみそ)くさい」「寝くさい」「ねだりくさい」「馬鹿くさい」「バターくさい」「半可(はんか)くさい」「人くさい」「日向(ひなた)くさい」「陳(ひね)くさい」「古くさい」「坊主くさい」「仏くさい」「抹香くさい」「見くさい」「水くさい」「味噌くさい」「面倒くさい」「野暮くさい」

以上53語も「〜くさい」が載っていました。このほか「イカ臭い」とかもあったりして。

とにかくこの53語の中には「さびくさい」はありません。

53語も辞書に載ってるくらいですから、「〜くさい」は「造語能力の高い接尾語」であり、「さびくさい」というふうに新しい言葉を作っていってもいいようにも感じます。

ためしに、アナウンス部のアルバイトのS嬢に

「“〜くさい”のつく言葉をいくつかあげてみて」

と頼むと、たちどころに、「人間臭い」「オヤジ臭い」「オバサン(オバン)臭い」「真面目臭い」「ミジメ(惨め)臭い」「ヤンキー臭い」「血なまぐさい」「幼稚くさい」といった言葉が飛び出しました。

「“〜っぽい”と言う意味ですよね、“〜くさい”って」

「うーん、そうだね。“〜っぽい”という、見た目もそうだけど、もともとはそのままの、“〜のにおいがする”という意味だったんだろうね。」

そういう意味では「さびくさい」も、とがめだてするほどのことはないのかな、という気になってきました。

それではこのへんで「ごめんくさい」。(それは違うって・・・)

2000/7/17


◆ことばの話142「マメスイ」

読売テレビでは7月に人事異動及び機構改革があり、新しく「マルチメディア推進局」という局が出来ました。

結構、カタカナの長い名前局です。そこで、関係の部署の人はこの局のことを省略して「マ・メ局」と呼んでいる、という話を小耳に挟みました。別に「豆」局って小さくはないんですけど、可愛い響きのニックネームだなあと思っていたら、エレベーターの中でマルチメディア推進局のO新局長と一緒になりました。

「Oさん、マルチメディア局は、“マ・メ局”って呼ばれているってホントですか?」と聞いたところ、

「いや、うちは“マルチメディア推進局”だから“ マメスイ”って言うんだよ。」

「はぁ、“マメスイ”ですかぁ」

なんか、お豆の吸い物のようだなあと思いながら相づちを返すと、O局長は

「ちなみに日本テレビは、“コンテンツ事業推進局”だから“ コンジスイ”や。」

と言い残してエレベーターを降りていかれました。

“コンジスイ”

奥歯が痛んだ時なんかに、効き目のありそうなコンテンツを紹介してくれそうな部署ですね。あれは今治水か。

ITやマルチメディア、インターネット関連の用語は、長いカタカナのものが多いので、きっとそれぞれの専門の部署ではこういった略語を山ほど使っているんじゃないかなと思いました。“セイロガン”とか“リポビタン”など、また面白いのがあったら、皆さん教えて下さいね。

2000/7/14

(追記)

O局長はジョークが好きな方なので、これはまったくの「ホラ話」かもしれません。念のため。

(追記2)

やはり、「ホラ話」でした。 読売テレビに7月からできた新しい局は「マルチメディア推進局」ではなく、「マルチメディア局」でした。まんまと、やられました・・・、今頃気付くとは・・・。

2000/8/10


◆ことばの話141「楽しみつくす」

会社の帰りに立ち寄った本屋さんの店頭。ずらりと並べられた雑誌の見出しにふと目が止まりました。

「楽しみつくす」

なんか、ひっかかりますよね。

「〜つくす」と言う形の言葉にはどういうものがあるか?

こういう時に役立つのは「逆引き広辞苑」です。

「〜つくす」という言葉を引くためには、逆引きですから「すくつ」を引きます。そうすると、語尾が「つくす」で終わる言葉がずらっと載っているのです。

それによると「言いつくす」(他五)「売りつくす」(他五)「書きつくす」(他五)「聞きつくす」(他五)「極めつくす」(他下一)「食いつくす」(他五)「為(し)つくす」(自サ変)「立ちつくす」(自五)「出つくす」(自下一)「取りつくす」(他五)「泣きつくす」(自五)「鳴きつくす」(自五)「待ちつくす」(他五)「見つくす」(他上一)と、14語収録されていました。「〜つくす」で思いつくのはこのほか「歩きつくす」「調べつくす」「焼きつくす」「やりつくす」などがあります。

しかし「楽しみつくす」は、やはり載っていませんでした。

「〜つくす」の形は「動詞の連用形十つくす」となっていますが、「楽しみつくす」も「楽しむ」という動詞の連用形である「楽しみ」と「つくす」がくっついています。

先程の「逆引き広辞苑」収録の14語のうち、この動詞の連用形の部分は、1文字が2語、2文字が10語、3文字が1語となっており、2文字が最も多くなっています。3文字は「極めつくす」の1語のみ。だから「たのしみ」と4文字の「楽しみつくす」は少し奇異に感じるのでしょうか?

他動詞か自動詞かにも注目しましたが、14語にのうち既にあげたように、他動詞が9つ、自動詞が5つで、「楽しみつくす」の原形の「楽しむ」は、自動詞・五段活用です。これも奇異に感じる理由にはなりません。

もう一つ考えたのは、動詞「楽しむ」の連用形の「楽しみ」が、名詞の「楽しみ」と同じ形なので、「名詞十つくす」と言うふうに感じられてヘンな感じがするのではないか、という点です。

辞書の14語の連用形部分は「言い」「売り」「書き」「聞き」「極め」「食い」「為(し)」「立ち」「出」「取り」「泣き」「鳴き」「待ち」「見」となり、それだけで「名詞」になっているものもありますが、それほど一般的ではありません。(たとえば、「売り」「食い」「立ち」「泣き」など)ところが「楽しみ」は非常に一般的な名詞なので、それに「つくす」がつくと違和感を覚えるのではないでしょうか?

また動詞「楽しむ」には、同じような意味の形容詞「楽しい」があるのに対して、そのほかの「〜つくす」には似たような形容詞がありません。

そして「〜をつくす」という形もあります。この場合は「贅(ぜい)をつくす」「礼をつくす」など「〜」に当たる部分には名詞が入ります。だから、名詞に感じられる「楽しみ」は「楽しみをつくす」とした方が違和感がないのでしょうか?・・・まだちょっとマシのようにも感じますが、どうでしょう?

この「〜つくす」に似た言葉を見つけました。以前「ことばの話11」で取り上げた「乗り倒す」です。「着倒す」「し倒す」「見倒す」など、「〜倒す」は俗語の強調の語法として、かなり使われていそうな言葉でした。(特に関西で。)

その辺りにもナゾが隠されているのかもしれません。これも答えが出ないので、宿題にしておきます。

2000/7/13