◆ことばの話135「南北問題」

2000年6月13日。史上初めて、韓国と北朝鮮の首脳が、握手を交わしました。

韓国の金大中・大統領がピョンヤン国際空港に着いたところを、北朝鮮の金正日・総書記が出迎えた模様は、生中継で伝えられました。両国の国民のみならず、世界中の人々にとっても歴史的な日です。

日本の新聞(夕刊)では、もちろん一面トップで「南北首脳会談が行われた」とありましたが、大阪市東淀川区にある朝鮮総連のビルには「北南」という順で首脳会談が行われておめでたい、という主旨(おそらく)の垂れ幕がかかりました。

二つの国がそれぞれ、自分の国を先に持ってくるのは国際的にも慣例になっているようですが、それとはまったく別の疑問が、小城アナウンス部長から出ました。



「東西南北の順番はどうして決まったの?」



うーん、これは難問だ。新しい「東西問題」「南北問題」です。さらに



「麻雀の時は“トン・ナン・シャー・ペー”つまり“東南西北”で、また順番が違うよな。」



「“お国自慢にしひがし”は西が先だよね。どうして?」

次から次へと難問が続きます。

だれか、わかる人、教えてくれ〜!!

2000/6/14


◆ことばの話134「万死」

神奈川県警の本部長が、不祥事を揉み消していた事件の裁判の判決で、裁判長は「罪は、万死に値する」という判決文を読み上げました。

「万死」

バンシ。聞き慣れない言葉です。

ロッキード裁判での田中角栄・元首相や、リクルート裁判での竹下登・元首相の言葉として使われたことがある、と新聞には書いてありました。

辞書を引くと「万死」とは「その事をすれば死ね事がまず確実に予想されること」とあり、「罪、万死に値する」「罪が重くて、まさに死に値する」(三省堂・新明解国語辞典)とあります。

ところが、「万死に値する」はずのこの元本部長に、なんと執行猶予がついた懲役刑の判決が下されたのです。

罪は「死に値する」のに、なぜ罰は「執行猶予」なのか?

理由はよくわかりません。

裁判では、判決は検察側の求刑の「七掛け」、なんてこともよく言われます。しかし「万死」はすなわち「死刑」ですから、「七掛け」でも「死刑」なんじゃないでしょうか。

(もちろん、元本部長を死刑にしろ、といっている訳ではありませんが。)

言葉を安売りすると、言葉の持つ意味が軽くなってしまうのではないか、と懸念します。

2000/6/14


◆ことばの話133「ひと昔前・一瞬」

アナウンス部に新人が仮配属されてきました!森若佐紀子さんです。その森若さんと、5年目の野村明大アナウンサーと一緒に昼食に行こうとした時の事。村上順子アナウンサーの机の上に、いわゆるコギャルが髪につけそうな花(造花)が置いてあったのを見つけて森若アナウンサーが、一言。



「これって、“ひと昔前”に流行りましたよね。」



うん?“ひと昔前”って、一体彼女は何年くらい前だと思っているんだろうか?と疑問に思って聞いてみると、「2〜3年前くらいですかね。」との答え。

私ぐらいの年代の者にとって、「ひと昔前」と言えばイコールおよそ10年前。だから、「ふた昔前」と言えば単純に2倍して20年前になると信じていました。

その話をすると、今度は野村アナウンサーが「一概に10年前ということではなくて、その流行が既に一つ前に流行ったものだと“昔”という言葉で表わします。一つ前の“昔”だから“ひと昔前”という言い方になるんじゃないですかね。」とのこと。

つまり新しい流行が始まった時点で、前の流行は「ひと昔前」になってしまうというのです。だから「半年前」でも「ひと昔前」という表現をすることはありうるとの話。

ふーん、そうなのか。 また、森若アナウンサーが学生時代にカナダに旅行したという話をしている中で、



「カナダには1か月ぐらい行ってたんですけど、ニューヨークにも“一瞬”、3日ほど行ったんですよ。」



ちょっと待った!“3日間”は“一瞬”なの?と、その瞬間に突っ込んでしまいました。

彼女の説明によれば、「往復夜行バスで行ったので、ニューヨーク滞在は正味1日。1か月滞在したカナダに比べれば、ほんの少しの時間だったので、きっちり滞在したのではなく、ちょこっと寄ったというニュアンスで“一瞬”って使ったんです。」

若者と会話する時は、同じ言葉を使っていても内容は全く違うこともありますので、要注意ですね。って、こういう事ばかり突っ込んでいると、若者に嫌われますので、そちらに注意した方がいいのかも知れません。と、“一瞬”思いました。

教訓・「注意“一瞬”、ケガ一生。」

2000/6/14


◆ことばの話132「モーニング娘。を考える」

(その1・「モーニング娘。=阪神タイガース論」)

「モーニング娘。」の人数がまた変わったようです。5人が8人になったり一人増えたり減ったりで、おじさんには何だかついていけません。(いかなくてもいいのですが。)

その「モーニング娘。」が表紙になっている週刊誌を眺めながら、「モーニング娘って、人数やメンバーがコロコロ変わるのに、グループの名前は全然変わらへんなあ。これに似たもんって・・・そういえば最近のテレビ番組も、タイトルは変わらないけど内容はガラッと変わっているものも多いなあ。」などと物思いに耽っておりました。

その時、ハタと思いつきました。

「そうか、モーニング娘。は阪神タイガースや!メンバーやリーダー(監督)はいつのまにか変わっているけど、チーム名は変わらないぞ。」

歌や踊りがそんなに飛びぬけてうまい訳ではなく、そういった意味で親近感を覚えて人気があるという点でも、タイガースと共通点がありそうです。

と、後輩のHアナウンサーに話したら、「それなら、Jリーグも一緒じゃないですか。メンバーがコロコロ変わるし。というより、日本全体が、今“モーニング娘。”状態になっているんじゃないですか?」と言われてしまいました。



(その2・「モーニング娘。の“。”」)

モーニング娘。のユニークさの一つに、そのグループ名の最後に「。」が付いているという事があります。当初は「モーニング娘」と「。」が落ちた表記もあったようですが、最近はどこを見てもこの「。」が付いています。まるでこれが登録商標のようでさえあります。(インターネットのことばサイトでは「モーニング娘。は文なのか?」という疑問・議論もあったようです。)

プロデューサーのつんくさんも、その辺は十分に意識しているようで、その後に出てきたユニット「プッチモニ」の曲「ちょこっとラブ」の中でも歌詞の中に「。。。。。」と書いて「マル、マル、マルマルマル」と歌わせるなど、「。」を特徴的に使っています。

これは、つんくさんが考案したやり方なのかな、と思っていろいろ調べていると、なんと起源は約20年前にさかのぼります。1980年代を席巻したコピーライター・ブームというのがありましたが、その中心的存在だった糸井重里さんのコピーが、ほとんどすべてと言って良いくらい「。」がついたコピーなのです。

「月刊・広告批評1982年9月号」(マドラ出版)では「特集・糸井重里全仕事」として糸井重里さんのコピーが網羅されています。その中からいくつかご紹介しましょう。

「よろしく。」

(矢沢永吉ショーのポスター)

「君に、クラクラ。」(カネボウ・パウダーファンデーション)

「おいしい生活。」

「不思議、大好き。」

「じぶん、新発見。」
(以上西武百貨店)
「やたッ。」(RCサクセション・サマーツアー・ポスター)



「センチメンタル50%ジャーニー。」(サンヨーレインコート)

確かに、このコピーは文章ではあるものの、短めの文章だったりして必ずしも「。」が必要とは思えないものに関しても、まず必ず「。」が付いています。「モーニング娘。」の原形は糸井重里にあったのですね。

それにしてもこうやって見ていると、80年代がよみがえってきますよね。

「モーニング娘。」の曲の「FUFUフーフー」などという掛け声も、80年代のディスコで流行ったものですし、それをパクッたというよりはパロッた感じがします。曲調もディスコ音楽の「ヴィーナス」と同じですし。(「フーフー、夫婦」などという言葉遊びも入っていて、これが駄ジャレ好きのオジサン層にも受けたのでしょう。)

そうなんです、「モーニング娘。」から感じられるニュアンスは80年代なんです。

曲にしても、30〜40代の人たちにとっては「以前どこかで聞いた事がある」ような曲で「親しみがある」し、10代、20代の人にとっては「聞いた事はないが親しみやすい曲」ということになるんでしょう。だからこそ幅広い年齢層に受けているんじゃないでしょうか。

この当たりのマーケット・リサーチ、あるいは「勘」がズバリと当たったあたり、つんくさんのプロデユーサー感覚はなかなかスゴイと思います。

しかし「モーニング娘。」は「所詮、時代のアダ花。」的な雰囲気は拭い切れません。そのつもりで商売しているんでしょうが。また、刹那的であればあるほど、この時代を象徴している、というふうにも言えると思います。



(その3・「モー娘。」)

「モーニング娘。」を文字で「。」まで書くと、7文字必要です。これは長い。

「SPEED」(スピード)も「MAX」(マックス)も4音で、これ以上省略するとかえって分かりづらくなるために、省略されていませんが、「モーニング娘。」の7文字はやはり長い。「ドリームズ・カム・トゥルー」だって長いから「ドリカム」の4音に、「サザンオールスターズ」は「サザン」の3音に省略されますよね。そこで「モーニング娘。」も省略されることになります。その省略形が「モー娘。」です。

普通、一番最初に省略されそうな「。」ですが、これは「モーニング娘。」の最大の特徴ですので省かれません。「娘」も一文字に3音が凝縮されているのでそのまま。1文字1音で一番効率の悪いカタカナの「モーニング」が省略されています。

ただ、書かれた省略形をそのまま読むと「モームスメ」なのに口に出て発音されると「モームス」となります。私がこの音から連想するものは「天むす」です。コンビニで売っています。(売っていない所もありますが。)また関東では「モームス(LHHH)」ですが、関西では「モームス(LLLH)」とアクセントは微妙に違います。

いずれにせよ、漢字一文字の「娘」は表記上は省略されませんでしたが(もし「娘」が省略されると“モー。”となり、牛の鳴き声と区別が付かなくなる。)発音上は「むすめ」のうち「め」が省略されているということになり、言文一致ではない状態が出現しているのです。

一方、「モーニング娘。」のうちの3人で作られたユニット「プッチモニ」は「小さいグループのモーニング娘。」という意味だそうで、この場合「モーニング娘。」の省略の仕方は「モニ」になっていて、「ー」と「ング」が省略されています。

それにしても、また新メンバーが入って、一体何人いるかわからなくなった「モーニング娘。」。昨日(5月26日)の日本テレビの音楽トーク番組「FAN」で、新メンバーの一人で12歳・中学1年生の子が、「“合宿”という漢字が読めない。」ことを他のメンバーに暴露されて答えて曰く「漢字は、だいたいわからない・・・」。

また、「メンバーを動物に例えると?」というアンケートの答えの中に出て来た「ビーバー」という答えを聞いて「“ビーバー”って何ですか???」。

・・・「。」がどうのこうの言う前に、日本語教育の現状をしっかり考えなくてはいけない気がしてきました。(マル)
2000/5/27


◆ことばの話131「神の国」

問題となっている、ご存知「神の国」発言。この「ことばの話」の中でも、森さんの発言については、総理就任以来たった2か月足らずの間に、再三取り上げてしまうほど、発言にはひっかかるところ(内容的にも、言葉の使い方から言っても。)が多すぎます。森総理は早稲田大学の雄弁会出身ですが、同じく雄弁会出身で多弁であった小渕・前総理でも、これほどではありませんでした。

特にいわゆるT・P・Oをわきまえない発言が多い事は、ローマでの中田選手に対する発言でも明らかになっています。

この中田選手の話を、60代半ばのある先輩(早稲田大学OB)にした時に、彼はこう言いました。「マスコミも、あんな部分(森総理が明らかな間違いを中田選手に教えようとしていたシーン)ばかり使わずに、もっとええとこ使ってやればいいのに」。別の先輩は「やっぱり同じ早稲田のOBやから、応援せなな。」

うーん、人の中身を見ようとせず外見(経歴や出身地)だけを見る人たちは、世の中にはまだまだ多いということですかね。

それはさておき今回、野党は「発言を撤回せよ。」と迫っていましたが、これもご存知の通り26日の謝罪会見では撤回する事なく「誤解を招いた表現についてお詫びする」ことで終わりました。

しかし本当に誤解を招いたのでしょうか?

森総理は、神道の人たちの集まりに出て「日本は天皇を中心とする神の国」と言ったのです。そのとおりに受け取られて、全く誤解ではないと思います。

「李下に冠を正さず」

という諺を、おそらく森総理はご存じないのでしょう。あっ、いいのか、すももを取りに来たのだから。

どうせ釈明するなら、こういうふうに言っておれば・・・

「私は“天皇を中心とした神の国”と言おうとしたのではありません。

“煩悩を中心とした民の国”と言おうとして、つい間違ってしまったのです。」


・・・やっぱりだめか。

このままでは“雄弁会”出身ではなく、“言う弁解”出身になってしまいます。

今朝(5月31日)の産経新聞によると、森総理の支持率は12%にまで落ちたそうです。

本当に解散・総選挙をする気なのでしょうか?

2000/5/31

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