◆ことばの話95「豚丼」

「吉野屋・松屋・なか卯」と聞けば?そう、牛丼屋ですよね。

しかし関西ではもともと、どんぶりご飯の上に牛肉を乗せたものは「肉丼」と言ってました。というのも関西では「お肉」と言えば「牛肉」を指していたからです。そこが「お肉」と言えば「豚肉」を指す関東との違いでした。

同じ事は、「豚まん」「肉まん」にも言えます。あの饅頭は、豚肉を使っていますから、関西の人は「豚まん」と呼んでいました。逆に東京の人は「豚肉=お肉」ですから「肉まん」。だから関西が地元の「551の蓬莱」は「豚まん」ですし、東京からやって来た「井村屋」は「肉まん」として売っています。中身の肉は同じ「豚肉」なんですが。

しかし、最近は関西でも「牛丼」と「肉まん」が勢力を伸ばしつつあり、「肉丼」「豚まん」は存亡の危機にさらされている、と言っても過言ではありません(!?)。

そんな中、先日テレビのコマーシャルを見ていると、関東がホームグラウンドのコンビニエンス・ストア「セブンイレブン」が、「豚丼(ぶたどん)」なるものを売り出したと言うではないですか!

なぜ、セブンイレブンは関東出身の企業なのに、このメニューを「肉丼」と名づけなかったのか?その理由として、そもそも、どんぶりご飯の上に豚肉を乗せるメニューが、関東にも関西にもなかったと言うのが一つ。そして、関西には既に牛肉版の「肉丼」が定着しているので、関東だからといって豚肉丼は「肉丼」とすると、混乱を招くのではないか?と配慮したことが、この「豚丼」登場の影にあるのでは?と私は推測しています。

なにはともあれ、一度お味の方を、試してみたいと思っています。

2000/2/28


◆ことばの話94「○×」

最近1日に10回以上目にするコマーシャルに、飯島直子が出てきて「○×クイズ!プリンターでもコピーがとれる?」と言うのがありますね。

上司らしき中年男性が「なんでそんな当然のことを聞くのかな・・・」という顔をして、

「バツ?」と半疑問ふうに答える。そのあとは、皆さん良くご存知の通りです。

閑話休題、コメディアンで司会の第一人者、明石家さんまさんが、よく出演者の失言に対してダメ出しをする時に、両手の人差し指を重ねあわせる格好をしながら「ペケ、ペケ」と言います。

ここで問題です。「×」と書いて、あなたは「バツ」と言いいますか?それとも「ペケ」と言いいますか?

「バツ」と答えた人は、関西以外の出身の人でしょう。「ペケ」と答えた人は、根っからの関西人です。関西人にとって「○×クイズ」は、当然「マルペケクイズ」になります。

「バツ」は、濁音の響きがキツくて、「ダメ!」と叱られているような気がしますけれど「ペケ」の方は、半濁音でなんとなく柔らかくてかわいらしい感じがしませんか?

スペイン語で「ちっちゃな」という意味の単語で「ペケーニョ」というのがありますが、その単語とも、音の上でも意味の上でも、なんとなく共通点があるような、ないような・・・。

このほか、関西人が大阪弁と気付かずに、共通語だと思って使っている言葉はいろいろあります。例えば、「なおす(共通語は、しまう、かたづける)」「豚まん(肉まん)」「押しピン(画鋲)」「モータープール(有料駐車場)」「さし(定規)」などなど。

こういった言葉は、あなたの中の関西人の度合いをチェックする「さし」として利用できそうですね。

2000/2/28


◆ことばの話93「2000年」

2000年になって、はや2ヶ月。2000年の前年の、1999年の秋、新聞用語懇談会で取り上げられた話題の一つが、この西暦の年号の読み方に関してでした。

イベントの冠(イベントの名前の前に付けられるスポンサーの名前などのこと)に、

「’99大阪シティハーフマラソン」「ドキュメント’99」

なんていうふうに「1999年」を省略した形の「99」がついていましたが、2000年になったらこれはどうなるのか、と言う問題でした。

この2ヶ月間、特に混乱もなく、それぞれの対応があるようです。



例えば、今日(2月27日)行われた「横浜国際女子駅伝」は「2000年(にせんねん)横浜国際女子駅伝」といってましたし、そのすぐ後に放送されていた「大阪シティハーフマラソン」は「2000(にせん)大阪シティハーフマラソン」と「年(ねん)」は抜いて呼んでいました。



この問題、書き方と読み方の両方の問題を含んでいますが、マスコミの中でも書く方の、新聞各紙の記事の中では、最初に「1999年」と書けばそのあとは「99年」でOK。「2000年」も同じく「00年」でOKで、既に実際そういうふうに使われています。

また、CDの貸し出し禁止期間や薬の服用期限、食品の賞味期限、旅行関係のガイドブックなども、各メーカーによって「00」にしていたり「2000」にしていたり、はたまた「’00」にしていたりとバラバラですが、何の苦情も出ていないようです。

また、読む方としては、先ほど例として出てきた「ドキュメント'99(きゅうじゅうきゅう)」は「ドキュメント'00」と書いて「ドキュメント・ゼロ」と読むことになりました。(あまりこのタイトルを音声で聞くことは今のところないですが。)

今後もこのまま、各社いろいろの形で行くのでしょうね。私達の取り越し苦労だったようです。

ただ、1990年から1999年までの10年間は「90年代」といったような呼び方をしてきましたが、2000年から2009年までの10年間はどう呼ぶのか?と言う問題がまだ残っています。

海外でもいろいろ取り沙汰されているようで、アメリカのインターネットのホームページ(ウェブ・サイト)では、去年の11月からふさわしい表現の人気投票が始まっていて、「ノーティーズ(Naughties)」とか「ゼロズ(Zeroes)」など、いろいろな呼び方が候補にあがっているそうです。ちなみに1900年から1909年までのことを、イギリスでは、国王エドワード7世(在位1901―1910)の名前から「エドワードの時代(Edwardian)」と呼ばれることが多いんだそうです。日本ではどう呼ばれるようになるんでしょうか。

答えは10年後?かな。

2000/2/27


◆ことばの話92「タイタニック」

ある結婚式の披露宴での話。

仲人や主賓の挨拶、新郎新婦の手によるウェディング・ケーキ入刀、2人の門出を祝う

乾杯など、形通り祝宴は進みました。

そして、一旦中座していた新郎新婦のお色直しも済んで登場・・・という場面になりました。



「皆様、新郎新婦が、装いも新たにご入場なさいます。どうぞ盛大な拍手でお迎え下さい。それでは新郎新婦の入場です!!」



司会者の声に合わせて会場の照明がスーっと暗くなり、入り口付近にスポットライトが

当たります。その光の中に姿を現した幸せそうな2人。

入場のBGMは、カナダの歌姫・セリーヌ・ディオンが歌うあの曲。

そう、今、結婚披露宴で一番人気のあるあの不朽の愛の名作「タイタニック」のテーマソング!

その時です!私の耳にかなり酔いの回った新郎の友人がポツリと漏らした言葉が聞こえたのは。



「あっ、沈没した船の歌や。」



皆、何も聞こえなかったふりをしているようでした。その後披露宴は無事に「お披露喜」を迎えたことを付け加えておきます。

2000/2/25


◆ことばの話91「懲戒解雇」

JRの新幹線の男性車掌が、女性車掌へのセクハラ行為でクビになったというニュースを、夕方の「ニュース・スクランブル」でやっていました。

この時の「クビ」の種類は「懲戒解雇」でした。

実は1年ほど前にもJ Rの職員がクビになった事件があり、その時はJ Rの広報が

「懲戒免職」

と発表しました。

確かに警察官などが不祥事を起こしてクビになる時は「懲戒免職」というふうに「免職」という言葉を使いますが、 JRは公共性はきわめて高いものの民間の会社です。

広辞苑をひいてみると、「免職」というのは「職を免ずること。職を解かれること。」だが、「特に公務員がその官職にある地位を失うこと」を指すとあったので、報道の記者を通じてJRの広報に確認した所、民間の会社であるJ Rとしては、やはり、

「懲戒解雇が正しい」

という答えでした。

国鉄民営化から10年以上経つのにまだ親方日の丸的な感覚が残っているのだなあ、と当時は思ったのですが、今回はしっかり「懲戒解雇」と言う言葉を使っていたので、ホッと安心・・・する訳はないですね。

「懲戒免職」も「懲戒解雇」もないように、しっかり頼みますよ!

2000/2/25

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