◆ことばの話85「被疑者死亡」

京都の小学生殺害事件の容疑者が飛び降り自殺してから、まもなく2週間。

京都府警は、容疑者死亡のまま書類送検しました。

この場合「容疑者死亡」なのか、「被疑者死亡」なのか?

また、グリコ森永事件の犯人・怪人21面相もつかまらないまま、先日(2月13日午前0時))時効を迎え、各府県警は「被疑者不詳」のまま書類送検しています。

これも「容疑者不詳」なのか「被疑者不詳」なのか?

辞書(広辞苑)によると、

被疑者・・・犯罪の嫌疑を受けたものでまだ起訴されない者。容疑者。

容疑者・・・犯罪の容疑を持たれている人。被疑者。


とあります。

まあ、両方最後にクロスする形でお互いの言葉が載っていますので、ほぼ同じ意味と見て良いでしょう。

報道のデスクによると「被疑者」は警察発表でよく使われるとのこと。また「容疑者」はテレビのニュースでは警察が逮捕状を執行した後、あるいは請求した時点で使われる事が多いようです。

結論から言うとテレビの報道では、被疑者もしくは容疑者が死んだ場合、その人物が特定されている訳ですから、逮捕状が請求・執行されている場合は「容疑者死亡」、されていない場合は「被疑者死亡」。犯人がわからない場合は、被疑者も容疑者も特定されていないので、逮捕状も請求・執行されていないので「被疑者不詳」となる、ということです。

2000/2/18


◆ことばの話84「ハッカー」

先月(1月)、政府の省庁のホームぺージに何者かが侵入してその内容を書きかえるという、いわゆる「ハッカー」による事件が相次ぎました。

こういった、コンピューターに勝手に侵入して悪さをする人や行為を「ハッカー」と呼んでいるのですが、専門家から「それはハッカーではなく、クラッカーではないか」という声があがりました。

もともと「ハッカー」とは「コンピューターに詳しい人」と行った意味で、別に悪いことをするかどうかという意味は含んでいなかったそうで、コンピューターに侵入して悪いことをする人のことは「クラッカー」、つまり「破壊者」と呼んでいたそうです。

2月の新聞用語懇談会・放送分科会でもこの話題が出ましたが、「もうすでにハッカーが定着しているので、今からクラッカーとすると、かえって視聴者の混乱を招くのではないか」という意見が大勢を占めました。

自民党での、こういった事件に対応するグループの名前も「ハッカー・サイバーテロ防止対策プロジェクトチーム」と「ハッカー」を使っています。

「サイバー・テロ」ということばも、今後頻繁に登場するかもしれません。

いずれにせよ、他人や公共機関のホームページに勝手に侵入して悪さをするのは犯罪行為であり、許されるものではないのは、言うまでもありません。

2000/2/16


◆ことばの話83「全線」

寒いですねえ。いわゆる「第一級の寒波」が来ているようで、大阪市内は雪こそ降っていませんが(予報はずれ?)ものすごく寒いです。「冬将軍」が最後の攻勢に出ているのでしょうか。

さて、その影響で東海道新幹線が名古屋と新大阪の間で、速度規制をしているようです。

また、道路は○○線が、全線通行止め・・・という場合の「全線」のアクセント、皆さんはどう発音されますか?

NHKアクセント辞典をひいてみると、「全線=ぜんせん(LHHH)」(Lは低く、Hは高く発音して下さい)の平板アクセントしか載っていません。ちなみに「前線」「善戦」「全戦」もおなじ平板アクセントです。しかし、「前線」と区別するために「ぜんせん(HLLL)」と、つい頭高の発音をしたくなります。

「全」がつく単語のアクセントはどのようになっているのか、抜き出してみました。



(平板アクセントのみ)

全域、全員、全快、全壊、全会、全開、全角、全額、全休、全巻、全曲、全軍、全景、全権、全集、全勝、全焼、全身、全線、全然、全速、全体(名詞)、全段、全通、全納、全廃、全敗、全般、全幅、全文、全米、全貌、全滅、全面的、全盲、全問、全訳、全容、全寮制、全力、全霊、全日制



(中高アクセントのみ)

全数、全音階、全音符、全学連、全国区、全国大会、全国放送、全国中継、全身麻酔、全盛期、全速力、全天候



(頭高アクセントのみ)

全科、全機、全句、全戸、全国、全山、全紙、全市、全姿、全州、全章、全治、全知、全都、全土、全党、全品、全部、全癒



(平板と頭高の両方のアクセントがあるが、平板が先に載っているもの)

全局、全県、全盛、全体(副詞)、全編



(平板と頭高の両方のアクセントがあるが、頭高が先に載っているもの)

全館、全校、全村、全店、全裸、全島



(中高と頭高の両方のアクセントがあるが、中高が先に載っているもの)

全世界、全日本



(中高と平板の両方のアクセントがあるが、平板が先に載っているもの)
全面、全量




というふうになっています。

もともと平板アクセントの単語が頭高になる傾向は、政治家や役人が使うことばに、多く見受けられます。たとえば、「判決」「予算」「審判」などなど。

ともに、頭にアクセントを持って来た方が、その言葉を強調することが出来ます。

「全線」を頭高に発音する原因としては、「全部の線」ということの「全部」を強調したいと言う気持ちが表れたこと、また最初にも述べたように、同じアクセントの「前線」と区別したいと言う気持ちの表れ、そして「全部」のアクセントが頭高であることなどが、あげられるのではないでしょうか。近い将来、定着すると思います。

2000/2/16


◆ことばの話82「パーカとジャジー」

少し旧聞に属しますが、京都の小学生殺害事件で犯人の遺留品の中に「青いパーカ」というものがありました。このニュースを聞いた時、私は「パーカではなく、パーカーではないのか?」と思って辞書をひいてみると、そこにはちゃんと「パーカ」と載っていました。しかし38年生きて来て、「パーカ」と発音したことは一度もありません。正に目からウロコが落ちる思いでした。「ヨットパーカー」って、伸ばして発音してましたからねえ。

それとは逆に、語尾を短く発音していた衣類の名前があります。

3年ほど前に起きた、奈良の中学生行方不明事件。姿を消した女子中学生が着ていたのが「ジャージ」だったのですが、これも正しくは「ジャージー」。語尾を伸ばします。「ジャージー牛」と同じ「ジャージー」です。しかし、それまで30何年か生きて来た中でずっと「ジャージ」と語尾を短く発音していました。この時も目からウロコが落ちました。

さらに、「パーカ」の話の際に、アナウンス部の若手アナウンサーに「パーカって、フードのついたヤッケのようなものだろ?」と言う話をした所、「ヤッケってなんですか?」

・・・若い人は「ヤッケ」知らないんですね。またまた目からウロコ・・・です。

新田次郎の山岳小説に出てくるし、、高石友也の「想い出の赤いヤッケ」って曲もあったやんか、と言うと「新田次郎・・知りません。本読みませんから。高石友也って誰ですか?」

・・・世代の差を感じました。

確かに「ヤッケ」という言葉が常識だった頃は、ワンダーフォーゲルや登山が一種のブームで、ドイツ語が多い登山系の用語(ピッケル、ザイル、アイゼン、ケルンなど)が結構普通に飛び交っていたような気がします、私が小学生くらい(1960年代後半から70年代前半)の頃は。流行語だったのでしょうね。

「ヤッケ」が通じないからと言って、ヤケになったりヤッキとなったりしないように。

それから、こういった衣類の言葉を調べていて驚いたのは「ウインドブレーカー」。

ごくごく普通に使っていますが、ある辞書によるとこれは「商品名」だというのです。

私は、普通名詞だとばっかり思っていました。特定商品名のリストにも上がっていませんし、商品名と書いていない辞書もあるので、おそらく、もともとは特定商品名だったものが、現在では普通名詞になってしまったのではないか、と思われます。スポーツ用品メーカーのMの広報の人に頼んで調べてもらっていますが、1ヶ月以上経ってもナシのつぶてです。わからないんでしょうね、きっと。

こういった身近な衣類の名前でも、結構オドロクことが、まだまだあるんですね。



(P.S)以前「ことばの話44」に書いた「フリース」も、ここ数ヶ月で、ずいぶん浸透してきたような気が(私としては)しています。

2000/2/16


◆ことばの話81「女子アナ」

「ことばの話73・女子行員」でも触れた「女子アナ」という職業に関して、こんな本を見つけました。

「女性アナウンサーという生き方」 (日経BP社)。

著者はテレビ東京のアナウンサー、八塩圭子さん。月刊誌の「日経エンタテイメント!」で1998年9月号から2000年1月号まで、1年5ヶ月にわたって連載されたものだそうで、合計21人の女性アナウンサーにインタビューした内容がまとめられています。

あとがきによると、連載中は「女子アナ天国」というタイトルだったそうですが、取材中に「女子アナ」という呼び方に少なからず抵抗があるアナウンサーが多いことに気付き、単行本化するにあたって「女性アナウンサーという生き方」に変更したと言うのです。

「やはり・・・」とう感じです。

この中で八塩さんがインタビューしている女性アナウンサーの最年長は、田丸美寿々さん。1952年生まれの47歳。この本の「トリ」として登場し「女性アナの先駆者」と紹介されています。

まあ、NHKにはもっと年配の女性アナがたくさんいらっしゃると思いますが、NHKは今までは、いわゆる「女子アナ」的な使い方をしてこなかったので、そういった意味では

確かに田丸さんは「女子アナ」「女性アナ」の先駆者でしょう。

その田丸さんは、「女子アナが一つのブランドになってしまうほど、よくぞ女性アナウンサーの地位が確立されたと思うと、隔世の感がある。」と話しています。

また、なかなか気骨のある後輩が出てこない原因として、二つの原因をあげています。

一つは、テレビ局側が「女子アナ」を商品として使いすぎるためにじっくりと育てられないこと。もう一つは、その女子アナブームに乗っている女性アナウンサー自身、「報道でコツコツ現場を這いずり回るより、キレイな服を着て注目される方が良い」と考えている人が多いことにある、と述べています。

ある意味で「女子アナとアナウンサーは、同じ物ではない」といういびつな現状があります。「女子アナ」の在り方を考えることは、すなわち、アナウンサーの在り方を考えることに通じるのではないでしょうか。

2000/2/15