◆ことばの話30「このシーズン一番の・・・」

今年はいつまでたっても寒くならなかったのですが、ここに来てようやく寒気団がやって来ました。今朝(11月17日)あたりは、かなり冷え込みました。

そろそろコートが必要な季節になってきたようです。

天気予報の原稿にもそのあたりを表現したものが出てきますが、昨夜の「今日の出来事」の原稿を下読みしている中でちょっと気になったのが、

「明日の朝は、この秋一番の寒さとなるでしょう。」という一文でした。

確かに今は、体感的には冬と言うより秋。しかし、昨日は「木枯らし1号」も吹いてるし、 何より、暦の上ではすでに11月8日に冬を迎えているのです。(二十四節気の立冬です。)じゃあ、「この冬一番の寒さ」なのかと言われると、「まだ、冬じゃないよなぁ・・・」と躊躇してしまいます。

結局その部分はカットしたのですが、今朝のNHKニュースを見ていると、

「このシーズン一番の寒さ」と言ってました・・・かなり苦労したんでしょうね。

1999/11/17


◆ことばの話29「今年の流行語」

少し早いですが、今年の流行語大賞をこのホームページでも考えようと思います。

いろいろ分野はあると思うので、ここでは今年流行ったカタカナ語について取り上げます。

それでは、私の選んだカタカナ流行語大賞、第3位は・・・ジャーン「リベンジ」4863点!(この点数は、インフォシークで検索した件数です。)

本来は「仕返し、復讐」と言った意味ですが、今回は「雪辱」と言った意味で使われていたようです。西武の松坂投手がインタビューに答えて使ってから流行り出したということですが、もともとK―1グランプリで良く使われていた表現だそうです。私は、ケビン・コスナーが主演した「リベンジ」という映画を思い出しました。(実は見てないんですけど、タイトルだけ覚えています。「ダンス・ウイズ・ウルブス」の次に主演した映画です。)

続いて、第2位!!「ミレニアム」5807点!!

「千年紀」という意味ですが、この夏から秋になって、急速に広まった気がします。 私もこの言葉に初めて接したのは、今年になってからです。恥ずかしながら、それまで全く知りませんでした。

1999年から2000年へ。1000年に一度しか味わえない一瞬がもうすぐそこまで迫っているのです。クリスマスと一緒でこのミレニアムも、キリスト教的・西洋的な考え方から来ています。西暦はキリストの誕生した年から始まっているからです。意外と、このことは忘れがちです。(実際はキリストは紀元前4年に生まれたそうですが。)

さあ、いよいよ、第1位!!!ジャジャーン!!!「カリスマ」10677点!!!

カリスマとは、そもそもギリシャ語からきていて「神の賜った物」と言う意味。そこから転じて、「英雄・予言者などに見られる、超人間的・非日常的な資質」を指します。

フジテレビの深夜番組で「カリスマ美容師」として登場し、脚光を浴び全国に広がりましたが、おかしなことに、関西ではこの番組は放送されていないのです。それにもかかわらず、ワイドショーや雑誌で取り上げられたため、関西でも「カリスマ」という言葉だけが一人歩きしていました。その後、カリスマ美容師の一人が、実は美容師免許を持っていないことがわかり、番組が終了したのはご存知の通りです。

番組が終わっても言葉はまだ使われています。

ここでの「カリスマ」は「名人、達人」の意味に使われています。そこで思い出すのは、やはりつい先日終了した、同じフジテレビの番組「料理の鉄人」です。この「鉄人」も流行りました。使われ方としては「鉄人」も「カリスマ」も同じです。分野が、料理と美容というふうに異なり、また修飾の仕方が前に付くか、後ろに付くかが違うだけです。

フジテレビは柳の下に2匹目のドジョウを見つけたのですが、カリスマ的支配は、長くは続かなかったと言うことでしょうか。

1999/11/8


◆ことばの話28「患者様」

2歳の長男が入院しました。

24時間、電解質の輸液をするため点滴のチューブにつながれたままで、それはそれは かわいそうでした。

幸い、一週間で退院できたのですが、その病院の個室の入り口に「道浦和彦様」と書いてあったのを見て「おや?」と思いました。

それだけではありません。廊下に貼ってある「携帯電話を使わないで」というポスターのタイトルにも、大きく「患者様へ」と書いてあります。

そして診察までの間、廊下で待っていると、患者さんを呼び出すアナウンスがありました。「山口様、田中様、樋口様、・・・。」

以前は「○○殿」あるいは「○○さん」という敬称だったような気がするのですが、いつから患者は「様」に格上げされたんでしょうか。

これに似たようなことを、先日取材で神戸のデパートに行った時に、店内に流れてきた「迷子のお知らせ」のアナウンスメントにも感じました。そのアナウンスとは、

「まいごさんのお知らせを致します。」

以前は「まいごのお知らせ」だったような気がするのですが。いつから、迷子に「さん」がつくようになったのでしょうか。なんか、「まいご」を甘やかしているように聞こえるのは私だけでしょうか。(こうやって甘やかすから迷子になるんじゃないでしょうか。親を甘やかすことにもなると思います。)

「まいごさん」はともかく、「患者様」の方は名前だけ持ち上げておいて、実際の対応が以前のままのような気がします。診察まで何十分も何時間も待たせておいて「○○様」と言われても困ってしまうのです。敬称に見合うだけの治療サービスを、きっちり行なって欲しいと思いました。

1999/11/8


◆ことばの話27「カツゼツ」

皆さんは「カツゼツ」ということばをお聞きになったことはありますか?

えっ?イタリアのミラノの名物で、子牛の?それは「カツレツ」。

舌ですよ、舌。

わたしたち、アナウンサーにとってはごく、普通の言葉として使っているカツゼツ。漢字で書くと「滑舌」あるいは「活舌」です。

今までなんの違和感もなく使ってきたのですが、先日、甲南大学の都染助教授から、

「小生は(この言葉を)今年6月に初めて知りました。ところが、学生達は当たり前のように日常語として使用しています。先生方6人に聞いたところ、30代の女性1人を除いて残りの5人は、初めて聞いた、とのことでした。広辞苑にも日本国語大辞典にも収録されていません。道浦さんはこの言葉を初めて耳にされたのはいつですか?」という内容のメールを頂きました。

思い返してみると、確かにアナウンサーの試験を受けるまで、「カツゼツ」という言葉は聞いたことがなかったような気がします。しかし、辞書にも載っていないとは・・・。

念のため、「NHKアクセント辞典」を引いてみましたが、載っていません。手元の「新明解国語辞典・第三版」(ちょっと古いですが)にも載っていません。

これは意外でした。

インターネットで「滑舌」と「活舌」の使用状況を調べてみると、「滑舌」が488件 (73.6%)、「活舌」が175件(26.4%)と「滑舌」が優勢でした。

ちなみに「滑舌」を使っているホームページには、「各放送局の新人アナウンサーの研修日記」のようなものが多かったです。

1999/10/28


(追記)

これを書いてから2年半、またインターネット検索で「カツゼツ」を調べてみました。前はYAHOOだったと思いますが、今回はGOOGLEで。その結果、

「滑舌」=8490件(81.2%)

「活舌」=1960件(18.8%)


でした。(2002年3月26日現在)2年半の間にずいぶんネット上で「カツゼツ」が使われるようになったのですね。使われている漢字別では「滑舌」が73,6%→81,2%と、8ポイント増えていて、「カツゼツ」の正しい表記は「滑舌」に収斂してきているようです。『日本国語大辞典・第二版』(小学館)でも、「滑舌」で載っています。

また、2000年6月に、甲南大学の都染直也助教授(当時・現教授)が『「カツゼツ」小考』という論文を発表されていて、それによると、「カツゼツ」は『新明解国語辞典』の第二版までは収録されていたのに、第三版(1981年)以降は削除されているということです。また、大学生260人を対象に行ったアンケートでは「カツゼツ」という言葉を知っている、あるいは使うという学生は、全体の約9割に達したということです。ただ、「カツゼツ」とはどんな漢字を使うか?という問いに対しては、

「滑舌」=56人(32.7%)

「活舌」=91人(53.2%)

「割舌」=10人(5.8%)

「括舌」= 9人(5.3%)

「渇舌」= 2人(1.2%)

「その他」=3人(1.8%)

(調査対象171人)


という結果が出ています。そこから考えると、学生の間では「活舌」の方が良く使われているということですね。「滑」は画数多いからねえ。仕方ないか。

2002/3/26
(追記2)

NHK放送文化研究所のホームページ「見たり聞いたり ことばウラ・オモテ」柴田実・主任研究員(元アナウンサー)が「滑舌」について書いています。それによると、「かつぜつ」(滑舌・活舌)は国語辞典に記載がないが一般に通用している語で、「滑舌」が載っている数少ない国語辞典として『大辞泉』(小学館)を紹介しています。
また、この言葉の起源(使われ始め)について、
「いつごろから使われているかはわかりませんが、昭和29年にアナウンサーの新人研修のときに使われていたという話があります。昭和45年の『アナウンス読本』にも「滑舌」として登場していますが、それ以前、以後の『アナウンス読本』にはいっさい記述がありません。」
とあります。
また、辞書では不十分な「滑舌」の解説を試み、「滑舌」には次のような要件があるとして、これらをすべて満たす技術を「滑舌・活舌」と記しています。
 1. 基本的に、日本語の音として1拍1拍が明瞭に聞き分けられること。
 2. 発音のテンポは、一般的な発話よりも軽快で(テンポが速く)あることが必要
 3. 言いよどみや、言い直しがないこと
 4. 一定のテンポで発音され、遅速がないこと

柴田さん、さすが、アナウンサー出身ですね!
ついでに、久々にインターネット検索で「滑舌」「活舌」の使用状況を調べておきましょう。(Google、6月9日)
「滑舌」=1万0800件(10,3%)
「活舌」=9万3600件(89,7%)

あれ!?逆転している!それも圧倒的に「活舌」に。どういうこと?「日本語のページ」に絞って、もう一回検索しましょう。
「滑舌」=  9540件(30,0%)
「活舌」=2万2300件(70,0%)

ありゃ。「活舌」がだいぶ減ったけど、それでも「活舌」の方が倍以上使われていますね。「滑舌」はあまり増えていないけど「活舌」は10倍以上にもなっています。この2年ほどの間に、何かあったのかなあ。

2004/6/9

(追記3)

NHKの「ラジオ深夜便」の雑誌(別冊ステラ)2004年8月号の「アンカー・エッセイ」で、水野節彦さんが「『かつぜつ』の謎」というエッセイを書いていました。それによると水野さんがNHKに入局した1964年にはすでに「かつぜつ(漢字は「活舌」)が良い・悪い」という使われ方をしていた、ということです。

2004/8/3


◆ことばの話26「虹は6色?」

朝から降り続いた秋の雨がようやく上がり夕陽が射し始めた頃、泊り勤務で出社した私がアナウンス部の東向きの窓の向こうに見つけたものは、生駒山の上の雲の隙間に短くかかった七色の虹でした。(フーッ・・・この一文は、ここ数年書いた中でもっとも長いセンテンスです。意味、わかりますかね?)

「あーっ、虹!」

虹を見つけた瞬間、大抵の人は声を上げます。少なくとも私はそうです。雑踏の中を一人で歩いていて虹を見つけた時も、心の中で大きな叫び声を上げます。そして、しばし歩を止め、その美しさに見とれます。(ちなみに流れ星を見つけた時も「あっ、流れ星!」と声を上げます。)それは、虹の色彩的な美しさもさることながら、その、つかの間の命のはかなさを知っているからではないでしょうか。まあ今風に言うと、滅多の見られないので「超レア物」扱いということですね。

それはさておき、今日、虹を見つけた時に端から色を数えたのですが、どう数えても6色しかないのです。「赤、橙、黄、緑、青、紫」。

「七色(なないろ)の虹」というくらいですから、当然、7色ないと辻褄が合いません。そう思って見ていると、黄色と緑の間が「黄緑色」に見えてきました。

しかし「黄緑色」は「なないろ」の中に入っていそうにありません。

たまたま一緒に見ていたアルバイトの女性に聞くと、

「ピンクですかねえ?」

・・・ピンクはないと思うよ。

「いつから虹は6色になったんだろう?」

などと、アホな事を考えながら、辞書で「虹」を引いてみました。がしかし、「虹」の項には色のことまでは書かれていないのです。頼りない辞書!次に「なないろ」を引くと、ありました、ありました。「赤、橙、黄、緑、青、藍(あい)、紫」。そうか、藍色か!

しかし理屈はわかったんですが、実際に虹を見てみると、どうしても「藍」色は見つけられません。

思うに、「藍」が生活の中で使われて身近だった頃は、誰もが「藍色」を見ることが出来たのでしょう。しかし、「藍色」というとジーンズぐらい、それも「インディゴ・ブルー」と呼んだりして、「藍」に触れる機会がなくなった現代の都会っ子にとって、「藍色」もまた、見えなくなってしまったのではないでしょうか。虹に変わりはないけれど・・・。

それだけ「アイのない世の中」になったのですね。

1999/10/27

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