◆ことばの話25「もたげる」

実りの秋、「ズームイン!!朝!」を見ていると、ある女性キャスターが、川の中で稲を育てている高校生を紹介していました。その時、稲穂の状態をこう表現していました。

「黄金(おうごん)の稲が頭(あたま)をもたげています」

言いたいことはわかるのですが、それも言うならこうでしょう。

「黄金色(こがねいろ)の稲穂が頭(こうべ)を垂れています。」

そもそも「もたげる」は「持ち上げる」の意味ですから、下から上がってくるもの。

稲穂は「実るほど 頭(こうべ)を垂れる 稲穂かな」

というくらいで、だんだん頭を下げていくもの。これではベクトルの向きが全く逆です。

似ているけど全く逆と言うことは往々にしてありますが、だからこそ、言葉はきっちり使いたいものです。(この女性キャスターは、読売テレビではありません。念のため。)

1999/10/21


◆ことばの話24「24時」

ことばの話も24回目、ということで、「24」にちなんだ話を。でも24時間テレビではありませんよ。

ここ数年、春と秋の番組改変期になると、よく出てくるのが「生放送!大阪府警24時!!」てな番組。ここで気になるのは「24時」です。

ご存知の方も多いと思いますが、列車のダイヤと同じく、テレビ局では24時間制を採っています。例えば午後1時は13時、午後10時は22時、そして午前零時は24時になります。ついでにいうと、午前1時は25時、午前2時は26時・・・。

いつまで続くかって?大体「おはようございます!」と朝の番組が始まるのが午前5時くらいですから、28時代(午前4時代)までは辛うじて聞いた事があります。29時とか、30時は聞いた事がないですね。

まあこれは、時間を売っているテレビ局としては、午前と午後で間違いが起こらないようにということと、25時、26時と言ってる間はまだ「今日」が続いてますよ、ということでもあるのですが、冒頭の「大阪府警24時」の「24時」は午前零時の事ではありません。明らかに「24時間」の意味で使われています。この用例は、みな暗黙の了解となっているようですが、まだ辞書には載っていないようです。

昔からの言葉で、「四六時中(しろくじちゅう)」というのがありますが、これは「四六=4×6=24」で「24時間ずっと」という意味だと聞いた事がありますが、もしかしたらこのあたりも「24時=24時間」と関連があるのかもしれませんね。

なぜ、24時間ではなく24時と言うのか?

わかる方がいたら、是非教えて下さい。

1999/10/8


◆ことばの話23「になります」

先日、出張の帰りに東京駅のレストランで昼食をとっていた時の話。

ちょうど昼時で、店内は大変な混みよう。ウエイターとウエイトレスは、きびきびと立ち振る舞って、なかなか気持ちが良い感じでした。

しかし、注文した料理が出てきた後に、ウエイトレスが伝票を机の上に置きながら言った一言に、私のアンテナがピピッと来ました。

「こちら、伝票のほうになります。」

「のほう」については、これまで散々言ってきたので、まあ今回は目をつぶりましょう。気になったのは、「○○になります」。

「伝票のほうになります」ということは、まだ、伝票になっていないってこと?

同じような事は、注文した料理が出てくる際にも、よく耳にします。

「こちらオムライスになります」

「こちら、カレーライスになります」などなど。

机の上に置いておいたら、オムライスやカレーになるんかい!まだ出来てないモンを持って来たんかい!オタマジャクシを持ってきて「カエルになります」や、ヤゴを持ってきて「トンボになります」ならわかるけど、持ってこられても困る。
・・・まあ、イチャモンと言われれば、ちょっとイチャモンです。
でも、「こちら伝票です」「オムライスです」「カレーライスです」と言えばいいことじゃないか、と言う気持ちも捨て切れません。

おそらくこの「なります」口調は、レジで代金を計算する時に言うセリフ、「オムライスとカレーで1800円になります。」から来ているのではないでしょうか。

これも「1800円です」でも良いのですが、「なります」と言うと、「ちゃんと計算したところ、そうなりましたよ」というニュアンスが感じられます。

断定を避ける言い方はこんな所にもあったのですね。

では今回はこのへんで「終わりになります。」

1999/10/8


◆ことばの話22「ストラディバリウス」

「ストラディバリウス」って、3回続けて言えますか?・・・舌、噛んだら、ごめんなさい。

アナウンサーの私もかなり苦労しました。(「マサチューセッツ州知事」も難易度は高いですが。)

今回はそのストラディバリウスの話です。

昨日(10月7日)から大阪・梅田の阪神百貨店で、名匠の作った総額30億円と言う素晴らしくお値段の高い楽器の展覧会が開かれ、4台の楽器を合わせると7億円のカルテットによる演奏が披露されたというニュースが流れました。そのうちの一つ、バイオリンはストラディバリウスで、1台なんと3億円!

もちろん、聞かれた事はあると思いますが、17〜18世紀のイタリアの有名な弦楽器製作者の手による、バイオリンやチェロのことを「ストラディバリウス」と言います。

この弦楽器製作者の名前はアントニオ・ストラディバリ(Antonio Stradivari)。

ここからがややこしいのですが、英語では、先程も書いた通り、A.ストラディバリが作った弦楽器を、単数形だとストラディバリウス(Stradivarius)、複数形だとストラディバリー(Stradivarii)と言うのです。

つまり製作者の名前と、作られた弦楽器の複数形とは、アルファベットで書くと、「i」が1個多いか少ないかの違いになります。日本語でカタカナにすると、語尾の「リ」が伸びるかどうかの違いです。

このため、最近はこの二つの区別があまりついていないように思うのですが、いかがでしょうか?

ちなみに、イタリア語で、Stradivariが作ったバイオリンやチェロのことは、Stradivario(ストラディバリオ)と言うそうです。

まあ、実際に手にすることは「一生、ない」ものですから、どちらでもよいと言えばそれまでなのですが。

1999/10/8


◆ことばの話21「いやが応にも」

夕方、「ニュースプラス1」を見ていると、自衛隊員の親子が実戦演習に参加と言う特集をやってました。その中の表現で「緊張はいやが応にも高まる」という表現があり、「あれっ?」と思いました。「いやが応にも」というのは耳慣れない。これは「いやがうえにも」と「いや応なしに」が合体して出来てしまった誤まった表現ではないか?

さっそく辞書を引いてみました。

広辞苑によると、やはり「いやが応にも」という項目はありませんでした。

「否応(いやおう)」は「不承不承。用例・いやおうなしに」

「弥(いや)が上に」は「なおその上に。あるが上に、ますます。用例・いやが上にも気勢があがる」とありました。

ちなみに、インターネットの検索ページ(インフォシーク)でこの3つの言葉の使用件数を調べてみると、「いやがうえにも」は3万9999件、「否応なく」は2488件、そして「いやが応にも」は156件でした。

まだまだ「いやが応にも」の使用例は少ないですが、今後、間違って覚えた人たちが使うケースが増えるかもしれません。

それにしても「いやがうえにも」の「いや」は「弥栄(いやさか)」の「弥(いや)」だったんですね。いやぁー、知りませんでした。「否応」の「否」だと思っていました。

世の中、知らない事が多いですね。だからこそ、こうやって調べるのが楽しいんですよね!

1999/10/8

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