◆ことばの話20「戦前」

ペナントレースもいよいよ大詰め。



先日の「巨人VS阪神」最終戦は、中盤まで0対0の息詰まる投手戦でした。



3連戦の最終戦で、ここまで連勝して優勝戦線に踏みとどまる2位・巨人と、ここに来て糸が切れた凧のように連敗を続ける5位・阪神。チームの勢いの差は歴然としています。



それが中盤まで同点、という戦況を見てアナウンサーが思わず言った言葉は、



「戦前の予想では巨人有利でしたが・・・」



私が引っかかったのは「戦前」ということばでした。



普通「戦前」といえば、「第二次世界大戦前、昭和20年8月15日以前」のことをいいます。もちろんそんな昔から、平成11年9月の巨人対阪神戦を予想していた訳はなくこの「戦前」は「試合前」と言う意味。



「そんな事は誰でも分かる」と言われればそれまでなんですが、私としてはやはり「試合前」という言葉を使って欲しい気がします。



ちなみに、「試合後のインタビュー」を「戦後のインタビュー」とは絶対言わないですよね。

1999/9/24

(追記)

いやあ、久々の追記ですねえ。7年ぶりかあ。最初の頃はこんなに短い文章だったんだなァ、感激。で、追記です。
金子達仁『WM(ヴェーエム)ワールドカップ・ドイツ2006観戦記』(ランダムハウス講談社・2006、8、10)を読んでいたら、
「戦前の予想では圧倒的にイングランド有利だった。」(112ページ)
という記述が出てきました。スポーツの世界では「戦前」が定着しているのかも知れませんね。
2006/9/4


◆ことばの話19「HP」

インターネットを悪用した犯罪や、一個人が大企業を相手に告発をするケースが増えています。それに伴って、新聞紙上でも「ホームページ」という言葉も頻繁に見かけるようになりました。



この「ホームページ」は6文字になるので、見出しで使われる場合の略称は「HP」が使われているようです。例えば、ホームページの掲示板に「知り合いを殺して」書き込んだ高槻市の女性ピアニストが、脅迫容疑で書類送検された事件(9月22日)だと、各新聞とも「HPで、知人殺して」という見出しでした。



ところが日経新聞だけは、ちょっと様相が違います。産業・経済を専門的に取り上げる事の多い日経では、HPというと、「ヒューレット・パッカード社」をさす事が多いので、この事件の見出しも「知人殺して、ネットに掲載」と「HP」を使わずにすませています。



日経4紙でHPが使われている50例について調べてみると、「ヒューレット・パッカード社」をさすものが43件(86%)、「ホームページ」をさすものが7例(14%)でした。



同じ略称でも中身が違う場合には、要注意です。

1999/9/24

(追記)

なんと7年4か月ぶりの追記です!
2007年1月31日の読売新聞朝刊・スポーツ面に、
「国母HP金メダル」
という見出しが出ていました。この「HP」スノーボード競技の、
「ハーフパイプ」
のことです。その第6回冬季アジア大会で、国母和宏選手(北海道・登別大谷高)が金メダルを取ったという記事でした。「HP」は他にも、「携帯電話」を表わす、
「ハンディーホン」
の略称として使われた時代もありました。今は「モバイル(ホン)」と言うのでしょうが。
本当に手軽ですね。「HP」は。
2007/2/1


◆ことばの話18「ブルース・ウィリス」

映画会社から、試写会のお知らせが届きました。



「ダイ・ハード」でおなじみのブルース・ウィリス主演の映画、「シックス・センス」。



「戦慄の新感覚スリラー」なんだそうです。(確か、少し前の主演映画は「フィフス・エレメント」。5から6に、一つ数が増えたなあ。) ところでこの主演男優の名前、「ブルース・ウイルス」だと思っている人が結構いるのではないでしょうか?



レンタルビデオ店に行って確かめてみたら、初期の映画は確かに「ウイルス」になっていましたが、途中から「ウイリス」に変わっていました。「ウイルス」じゃ、ばい菌みたいですものね。



しかし、よく見ると今回は「ウィリス」と「ィ」が小さくなっているではありませんか!



どれが本当やねん!?「ウイリス」と「ウィリス」では、声に出した時の感じが全然違うじゃないですか!これはよく調べなければ・・・ということで、映画配給会社に電話をして聞いてみたところ、「昔から、ウィリスだ。」とのこと。・・・知らなかった、ずーっと「ウイリス」だと思ってた・・・。



これによく似た例では、「沈黙の戦艦」などのシリーズでもおなじみの「スティーヴン・セガール」。彼も初期は、「スティーヴン・セーガル」でした。「ガ」が伸びるか、「セ」が伸びるかの違いです。



もうちょっと古いところでは「リーサル・ウエポン」シリーズの名脇役「ジョー・ペシ」。



彼は、「レイジングブル」に出た時には「ジョー・ペスチ」でした。「Pesci」というスペルをローマ字読みしていたんでしょうね。



さらに不思議なのは、「007シリーズ」や「レッド・オクトーバーを追え!」などで超有名な、「ショーン・コネリー」。彼のファースト・ネームのスペルは「Sean」です。これはどう読んでも「シーン」だと思うのですが、「シーン・コネリー」ではなく、「ショーン・コネリー」です。



20年ほど前、アメリカのレーガン大統領就任の時に、それまで呼ばれていた「リーガン」でなく「レーガン」にしてくれという要請があったといいます。財務長官が同じ名字の「リーガン」だったので、区別がつきにくいと言う事もあったのでしょうか。



先日の世界陸上で、優勝した北朝鮮の女子マラソン選手の名前が「チョン」か「ジョン」かで問題になったように、外国人の名前のカタカナ表記は、本当にムズカシイですね。

1999/9/3


◆ことばの話17「暫定トップ」

おめでとう、市橋有里選手!(ゆり、ではなく、あり、なんですね。)



スペインのセビリアで行われている世界陸上の女子マラソンで、市橋選手は見事2位に入りました。あの、暑い暑いアンダルシアで42,195キロを2時間27分で走り終えて、なお余裕のある表情には驚きです。



ところで今回のマラソン中継の実況は、TBSのスポーツアナウンサーではなく、おなじみ、フリーの古舘伊知郎さんが担当していました。



それはそれで、おもしろかったのですが、ところどころ気になる表現がありました。



・「マシャドが脱落するとは想像だにしなかった」・・・これは「予想だに」の方がいいのでは?もちろん間違いではないですが。



・「ロバ、市橋、シモン、この三すくみの戦いになるのか!?」・・・・これは明らかに「三つ巴」でしょう。



・「戦い済んでミネラル・ウォーターの水を口に含む」・・・ウォーターと水は同じです。



・「これからオリンピックに向けて、着々ですね?」・・・「着々と」は聞いたことがありますが、「着々」というのは初めて聞きました。



まあ、このくらいは言い間違いという事もありましょう。



しかし、ゴールまであと2キロを切ったあたりから連発していた「暫定トップ」という言い方は、はっきり「間違い」ではないでしょうか?全選手がハンディ・キャップもなく同時にスタートしているのですから、「暫定」はありえません。



古舘さんお得意のF1ではポール・ポジション争いで「暫定トップ」というものがあるそうですが、マラソンとF1は、こう言う表現に関しては、きっちり区別しなければなりません。ラグビーの「トライ」とアメリカンフットボールの「タッチダウン」を混同してはいけないのと同じ理由です。



「魂のEメール」「相乗効果、走る互助会」「筋肉細胞のレコンキスタ」「端麗辛口の表情で(これはキリンからCM料が出てるのか?)」など、ユニークな「古舘節」はともかく、「暫定トップ」は納得できない表現でした。



それから、市橋選手にインタビューしていた女性アナ。はしゃいでました。



市橋選手にイアホンを渡して、実況席の古舘アナ(あえてアナとしておきます)とクロス・トークをしてもらう際に「じゃ、耳をつけてもらいましょうか」はないんじゃないですか?



確かに業界ではイアホンをつける事を「耳をつける」と言わない事もないですが、楽屋裏の打ち合わせならともかく、その様子も放送されているんだし。でも、ロバ選手じゃなくてよかった・・・・だってロバ選手じゃあ、ロバの耳・・・。



(おまけ)

この世界陸上の女子マラソンで優勝した北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の選手の名前を、TBSの中継(古舘さんの)やその後のニュースでは「ジョン・ソンオク」と呼んでいましたが、他局の放送および新聞各紙はすべて「チョン・ソンオク」となっていました。(毎日新聞も「チョン」。時事通信は「ジョン」)



なぜ、TBSだけ違うのか?TBSのアナウンス・センターに電話で聞いてみました。



すると、「現地の放送スタッフの間に回ってきたペーパーに、ローマ字でJongとあったため、ジョンと呼ぶことになりになってしまい、その後は、最初にジョンで紹介したのだからそれで通そう、ということで競技終了後もジョンになってしまった」んだそうです。



私が電話をしたのは今日(8月30日)の午前10時半頃。その後も、11時半のお昼のニュースの5分前まで「ジョン」だったのですが、朝鮮総連に確認したところ「チョン」だということがわかり、お昼のニュースから「チョン」に訂正したそうです。



セビリア99世界陸上の公式ホームページにアクセスしてみると、英文の試合結果や記録の速報を見る事が出来ますが、そこには女子マラソンの優勝者として、Song-Ok Yong と記されていました。



Yongをどう発音するか、私にはわかりませんが、スペイン語(特にアンダルシア地方や中南米)では、Yoを「ヨ」ではなく「ジョ」と発音します。だから、セビリアの人がYongを発音すると「ジョン」になるかもしれません。もしかしたら、そういった事情もあったのでしょうか。



いずれにせよ市橋選手が銀メダルではなく金メダルだったならば、「チョン」か「ジョン」かという話も、特に気にもされることもなく終わっていたことでしょう。

1999/8/30


◆ことばの話16「プライベート・ライアン」

洋画の中には、タイトルを聞いただけで内容の分かる映画と、判らない映画があります。



例えば、「タイタニック」なら「ああ、あの豪華客船が沈没した話だな。」とすぐ分かります。では、「プライベート・ライアン」はどうですか?



遅れ馳せながら(映画の公開は98年)つい先日、レンタルビデオでこの映画を見るまで私はこのタイトルの意味が分かりませんでした。



戦争映画だというのは聞いていたし、「ライアン」が人の名前だというのも、何となく分かっていました。問題は「プライベート」です。



確か、受験英語で覚えたのは「個人の、私的な」という意味。「プライベート・レッスン」という、ちょっとエッチな映画もありました。サブタイトルは「個人教授」だっけ。



それから(どれからだ?)類推すると「私的なライアン」ということになります。戦場でのライアンの個人的な趣味の世界を描いたものでしょうか?



よく分からないまま、ビデオを見終わってすぐに英和辞典を引いてみて、驚きました。



そこにはなんと「プライベート」の意味の一つに「兵・兵卒」というのがあるではないですか!つまり、「プライベート・ライアン」 は「兵士ライアン」だったのです。



どおりで、字幕には「ライアン二等兵」と書かれていた訳だ。



そういえば、ベンジャミンという女性が軍隊に入る「プライベート・ベンジャミン」って映画が以前にありました。(見てないけど。注・調べたら1980年の公開、主演・製作総指揮ゴールデン・ホーンでした。)あれも「ベンジャミン二等兵」だったのか・・・。



ところでこの映画の英語の原題は「Saving private Ryan」。「ライアン二等兵を救え」あるいは「ライアン二等兵救出作戦」というふうな意味でしょうか。これなら、内容はよく分かります。それがなぜか、日本では「Saving」が抜け落ちてしまっています。



意味が分かりにくい方が、興味がわくからかな?もしくは、単語二つの方が、ゴロが良いのかもしれません。



ちなみに、1999年8月27日の金曜ロードショー(読売テレビ・日本テレビ系列)の映画、「ターミナル・ベロシティ」って、どんな映画だと思いますか?



私は、「近未来のSF映画でベロシティという都市があって、市のマークはローリング・ストーンズのマークのようにベロ(舌)をベーッと出している、そこの中央にある駅(ターミナル)を舞台にした映画」だと、見るまでは思ってました・・・。



「ターミナル・ベロシティ」の本当の意味は「限界速度」。えっ!?何の映画かって?飛行機からパラシュートを背負って飛び降りる男の人が主人公の映画です。(つまりスカイダイビングのインストラクターやね。)「近未来」も「ベロ」も「駅」も出てきません。よく考えると日本語の「ベロ」だけ、「ターミナル」と「シティー」の間に挟まる訳が、ないですもんね。

(おまけ)

この「ターミナル・ベロシティ」には、ロシアの元KGBの女性スパイ(ナスターシャ・キンスキー)がからんできます。主人公との会話の中でその女スパイが「KGBが・・」と言いかけると、主人公の男性(チャーリーシーン)が「KGused to B(be)」というシャレを言う場面が記憶に残っています。(英語が分かったのはここだけですが。)

1999/8/28


(追記)

4年ぶりに「追記」です。
『翻訳夜話2サリンジャー戦記』(村上春樹 柴田元幸、文春新書:2003、7、20)を読んでいたら、60〜61ページこんな一節が!

柴田: タイトルのことをうかがおうかと思うのですけど、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』というタイトルに決められたのはどういうプロセスで・・・・・。
村上: 正直言いまして、途中まではどうしようかなと迷っていたんですよ。『キャッチャー・イン・ザ・ライ』じゃ意味はぜんぜん伝わらないだろうしなあ、と。でもっと中から、The catcher in the Ryeというタイトルは、結局のところブラックボックスみたいなものなんだと考えるようになったんです。だから、もうこれはブラックボックスとして、意味がわからなくてもそのままわからないなりに、それごと読者に引き渡すしかない、と。(中略)だから長期的に見ればということですが、タイトルを『キャッチャー・イン・ザ・ライ』としても成立するだろうと。映画『プライベート・ライアン』と同じで、中身についての情報さえある程度あれば、タイトルそのものの意味がわからなくても、機能します。平均的な日本人って、privateが「兵卒」の意味だなんて知りませんよ。でもだれも文句言いませんよね。まあ、『プライベート・ライアン』くらいは、そんなに深い意味はないから訳しちゃっていいと思うんだけど。

おお!『プライベート・ライアン』の「プライベート」はやっぱり一般的な人は「兵卒」という意味を知らないんだ!
でも「だれも文句言いませんよ」と村上春樹さんは書いてますが、いるんですよ、ここに。4年前からブーたれてるヤツが。どないしまひょ?


2003/8/4