ヘッダー Space『となりのクレーマー〜
「苦情を言う人」との交渉術』
(関根眞一、中公新書ラクレ:
2007、5、10)
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はっきり言いましょう。この本の規定にあわせると、私は「クレーマー」です。ですから 読んでいると、「苦情係」だった著者に対してよりも、その「敵」とも言える「クレーマー」の方の心情に思い入れがないこともない・・・・感じでした。
これまでにも『社長を出せ!』など、苦情処理係の方の並々ならぬ努力、明らかに行き過ぎたクレーマーの様子を書いた本を何冊か読みましたが、これまでの本の方が、クレーマーに対する「思いやり」というか、本当はそんな文句を言う人じゃなかったはず・・という気持ちがこもっていたように思います。この本は明らかに「クレーマーは敵!」という視線が感じられました。それだけ無法なクレーマーが増えているからでしょうか?
私も3月末に鹿児島の指宿に旅行した際、松林の中に建つHというとっても豪華な旅館ホテル(敷地内に美術館まで建築中であった)に泊まりましたが、ここでひどい目に遭いました。
本当は、うちの家族4人と私の両親の6人での旅行の予定が、娘が熱を出したりして、結局、父と息子と私の「男3人旅」だったのですが、部屋にはなぜか、歯磨き用のコップが「2つしか」ありませんでした。いくら息子が小学生だからと言って、3人で泊まるのに「コップが2つ」はおかしかろう、部屋の担当の人が間違えたのだろうと、父がフロントに電話したら、
「一部屋に、コップは2つという決まりになっています」
との答え。そこで引き下がる私ではありません。すぐにフロントに電話をかけ、
「コップがひとつ足りないんだけど。」
「あ、今お話しましたけど。」
「『今お話した』じゃない!3人なのに、コップが2つしかないというのはおかしいでしょ。あなたは、「歯磨きのコップ」を共用して使えというの?冷蔵庫の飲み物用のコップは3つあるし、歯ブラシも3本あるんだよ。コップだけ2つというのはどういう根拠で決まったのか、責任ある人に説明してほしい。それに、そもそもウチは、この部屋に家族6人で予約したんだよ。6人で泊まっても一部屋にコップは2つですか?おかしいと思いませんか?」
「決まりなんですが・・・」
「・・・・少々お待ちください」
待つこと1分ほど。
「今回に限り、3つお持ちします。」
「ちょっと待った。今回に限りというのはおかしいでしょ。そちらのミスを認めないのか!?責任者を出せ!!」
「わかりました。」
「待て!これから夕食の予約をしているから、1時間後に部屋に来なさい!」
「承知しました。」
実はこの後のレストラン(ホテル内の)でも散々な目に遭うのですが、それは省略して、部屋に戻ると、廊下の暗闇の中に中年男が立っていました。
「あ、道浦さまでございますか?失礼しました。接客課長の○○でございます。」
「まあ、中に入りなさい」
部屋の中で、父と二人でこちらから説明したあと、私が、
「そもそもこのホテルは、客のことをなんと考えているのか、建物だけ立派でも、接客サービスがこんなにひどくては、すぐにつぶれますよ、間違いなく10年以内に潰れるね。客をバカにするにもほどがある!私もせっかく20数年ぶりに、昔のいいイメージを持って指宿に来たのに、これでは指宿のイメージはガタ落ちだ。2度と来たくない。サービスが良くなるまでは。友人や知人にも薦められない。それどころか『やめた方がいいよ』とお薦めしたいぐらいだ!違いますかっ!?」
と語気も強く、サービスのあまりの未熟さとその対応の悪さに不満を訴えると、接客課長は、
「ごもっともです」「おっしゃる通りでございます」「私の至らなさのために・・・」
と繰り返すので、
「あなたの責任じゃないですよ。もうこれは経営者の経営方針の問題です、建物・器には金はかけるけど、人材教育にはお金をかけないという方針から生じた結果が、如実に現れている!」
と畳み掛けると、横から父が、
「まあまあ、接客課長さんもお困りだろうから・・・普段はそんなに悪くもないんでしょ。でもね、この人(=私のこと)も言い方はキツイが、言っていることはまともで、その通りですから・・・」
と、まるでアメとムチで容疑者にドロを吐かせる「刑事ドラマの一シーン」のよう。これで「カツ丼」でも出たら、まさに刑事ドラマでした。
接客課長は恐縮し切って、謝って帰っていきましたが・・・・話はこれでは終わらなかったのです。
家に帰って、ホテルの予約をした妻に、ことの顛末を伝え「でも、部屋は結構広かったよ」と写真を見せると、
「おかしいわね・・・私が予約したのはこのタイプの部屋じゃない」
と言うではありませんか。しかも、泊まった部屋は、予約した部屋よりワンランク下の「安い部屋」だったのに、料金は予約した「高い部屋の料金」を取っていたのです。
もちろん、わざとではないでしょう。でも経理も予約もこの体たらく。
今度は電話で「どういうことですか?」と問い合わせました。接客課長は、
「今日は休みなので、すぐにはわかりませんので、明日、すぐにお返事します」
ということで翌日、かかってきた電話、
「すみません、道浦さまのおっしゃるとおり、なぜか予約係がお部屋の手配を間違えておりまして、料金を間違えて1万円以上多くいただいておりました・・・」
「で、どうしてくれるの?」
「もちろん、いただきすぎた分はお返しします。現金書留でお送りしてよろしいでしょうか?」
「いや、家にいないかもしれないから、銀行口座を言いますから、そちらに振り込んでください。」
「承知しました!申し訳ありませんでした!!」
当然翌日、銀行に振り込まれていると思って確認に行っても振り込まれていません。田舎だから遅いのかなと1週間待ちましたが、振り込まれていません。結局、その電話から3週間。1円も振り込まれないばかりか、「振り込みました」という報告の電話も、今回の不手際に関する謝りの手紙もありません。さてはごまかして逃げ切る気か。どこまで腐ったホテルなんだろう。
さすがに、またこちらから電話しました。
「振り込まれていないんですけど・・・」
「え・・・?確かに振り込むように経理に指示したんですが・・・・」
「・・・で、あなたは経理が振り込んだのかどうかの確認をしましたか?」
「・・・いいえ・・・やってくれてると思っていまして・・・」
「なぜ私に『経理に振り込ませましたので』と電話の一本もかけなかったのですか?というより、なぜ本当に謝ろうという気があるなら、自分ですぐに振り込まない!どうせ誰かがやってくれるだろうと思ってるんだろ!それだからお宅のホテルはダメなんです。全部他人任せ。自分でやろうとしない。しかも責任はもちろん取る気など、端(はな)からない!接客課長がそういう態度を取っているから、ホテルマン全員にそういう空気が伝染していくんです!もう取り返しのつかないところまで来ていますよ。10年どころじゃない、このままでは5年以内に潰れますよ。お金のことでも、こんな風なんだから。信用なんて保てるわけがないでしょ。」
「・・・・・」
「申し訳ないとも思ってないでしょ。早く怒りの嵐が過ぎればよいと思ってるでしょ」
「いえ、そんなことは・・・・」
「じゃあ、どう思っているんですか?」
「・・・・すみませんでした・・・」
「明日、朝一番に、あなたが、銀行に振込みに行きなさい。午後一番に、私は確認しますよ。それと速達で、詫び状を送ること。あなたの自筆で。2度とこのような不始末は起こさないと書きなさい。詫び状の書き方ぐらいわかるでしょ。」
「・・・わかりました」
中学生のような拙い字でつづられた詫び状が届いたのは、それから2日後のことでした。
当分、指宿には行きたくありません。
こんな私は「クレーマー」でしょうか?
(このホテルの名前を知りたい方は、大手の観光ガイドブックにカラーで広告が出ているのでご覧ください。砂風呂に入れるホテルです。砂風呂は、宿泊料金とは別料金ですが。)

★★★★

(2007、5、15読了)

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