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『辞書の政治学〜ことばの規範とはなにか』(安田敏朗、平凡社:2006、2、1)
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この著者の本は、以前『<国語>と<方言>のあいだ』というのを読んだことがある。大変、知的好奇心をくすぐる著作だが、この本も2800円というのは値段設定が、ちと高くはないか。専門書で発行部数が少ないから仕方がないのかもしれないが、CD一枚、『新明解国語辞典』が3000円ということから言うと、やはり2800円は高いのではないか。でも『言海』を写した表紙のデザインは「辞書に関する本ですよ!」とよくわかって、デザイン的にはとっても良いと思う。
それはさておき、この本ではNHKの『プロジェクトX』が描いた『広辞苑』と『新村出』を、ケチョンケチョンにけなしている。また、明治期における辞書編纂とナショナリズムの関連についても書いていて、文明国の「標準」としての辞書の必要性も説いている。「culture」という言葉は、明治期までの和英辞書では「修練」と訳されることが多く、大正期になって「教養」の訳も登場するようになる(79ページ)といったことや、『広辞苑』は、第二版が出た1969年前後に権威を得て、高度経済成長時に『国民的辞書』の座を獲得した(100ページ)ということなども記されている。
新聞用語懇談会で私もお世話になっている金武伸弥さんの『「広辞苑」は信頼できるか』についての記述もある(105ページ)。
また、『言海』を編纂した大槻文彦は、辞典完成祝宴の際の口演で、1873年に文部省報告課設置当時に企画していた6項目の出来事のうちの一つは、「外国の地名と人名を一定したいということ」だと話したという。それから130年余、いまだに外国の地名や人名の表記は確定していない。恐らくずっとこのままなんだろうな。
著者は1968年生まれとまだ若いが、本当によく勉強しているのだなあと感心した・・・ってそれが専門なので、当たり前と言えば当たり前なのだが・・・一橋大学の助教授だし。感心したら、かえって失礼だよな。勉強になりました。

★★★★
(2006、3、16読了)
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