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『これが戦争だ!〜切手で読みとく』
(内藤陽介、ちくま新書:2006、3、10)
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切手の博物館副館長の著者が、お得意の「切手で読み解く」歴史。切手から読み取る"戦争"の実情を、次々と示していく。切手が「メディア」として機能した19世紀、20世紀を振り返ることができる。前著『反米の世界史』(講談社現代新書)は、「だ」「のだ」という文体だったが、この本は「です」「でした」体なので、やさしく読みやすい感じがした。前著は、内容がやや堅い・・・というか難しいので、文体が「だ」調だと余計に難しく感じたが、この本のように「です」調だと、講演を聴いているようで、比較的内容に入りやすい気がした。文体というのは大切なのですね、と改めて思いました。
第1章の「この土地は我々のものだ!」では韓国の竹島切手を取り上げている。2002年8月に韓国郵政は「我が故郷」と題した32種類の切手を発行したが、その中に「独島(=竹島)」を描いたものがあった。これに対して日本政府は、なんら抗議をしていなかった。そして韓国郵政は2003年夏には、2004年に「独島の自然」と題する切手を発行することを発表。これに対して日本政府はようやく総務省が、「良識ある判断」を韓国側に求め、切手の発行の再考を促す書簡を送ったものの、2004年1月16日にこの切手は、しっかり発行されてしまった。2002年8月の段階で、政府が外交ルートを通じてしっかりと抗議をしておれば、「独島の自然」シリーズの発行を阻止できたのではないか。そうすれば「韓国の領土としての独島」をアピールする切手が全世界に向けて発送される事態も防げたのではないか。
著者は、切手の持つメディア性をしっかりと意識している韓国政府と対比して、そういった意識に欠ける日本政府を、痛烈に批判している。そういう意味では、切手は21世紀の現在も、「メディア」として機能していると言えるであろう。

★★★★
(2006、3、14読了)

(追記)
1840年というと、イギリスで初めて切手が発行されたとし、つまり郵便制度が始まった年ですが、実はこの年は、アヘン戦争の年でもあります。
18世紀後半イギリスで茶の需要が増大。茶の対価を銀で支払っていたイギリスの対清貿易は、慢性的に赤字となりました。そこで1773年から、東インド会社はインドでケシを栽培させて清朝に密輸。そのアヘンによる社会的被害の増大を受けて、1838年、道光帝はアヘン密輸根絶のため林 則徐を広州に派遣。イギリス商人からアヘン2万箱を没収して廃棄処分に。
これを受ける形で1840年、イギリス議会は、賛成271票、反対262票で清朝に対する戦争の発動を可決したと、『これが戦争だ!切手で読みとく』の48〜50ページに書いてあります。私が驚いたのが、アヘン戦争のきっかけとなったイギリス議会の決定が、わずか9票差で可決されたということ。半数近い人は「反対」だったということです。その時代のイギリスの良識の存在と、多数決によって進む民主主義というものの恐さ。そういったことを、この記述(事実)から知ることができました。
(2006、3、22)
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