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『国家の罠〜外務省のラスプーチン
と呼ばれて』
(佐藤優、新潮社:2005、3、25初版)
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話題の書。ニュースで見た著者は、ふてぶてしく見えて、まさにサブタイトルにあるように「怪僧・ラスプーチン」のように、「よくわからなさ」を体現していたが、この本で解き明かされる著者像は、「変わり者だけれども、国家と歴史に対する大きな使命のために全てを捧げる、冷静な切れ者官僚」という感じで、好感がもてる。同志社大学の、しかも神学部出身という経歴も、外務官僚としては異色だと思った。
何より、取調べに当たった西村検事との取調べを通じての交流・戦いが、この本の一番読み応えのあるところであろう。また、我々の知らない拘置所の中での生活の様子も、よく描けていると思った。
でも・・・なんだかだまされているような気がしないでもない。
著者は、結局「国策捜査」に巻き込まれて、「国家の罠」に嵌ってしまったということなのだが・・・確かにこの世の中は、善と悪に、キッパリと割り切れるわけではないのだが、著者の話を「丸呑み」することも出来ないような・・・。
しかしまあ、「テレビ」というメディアで伝えられた内容は、核心部分を何倍・何十倍にも拡大してしまうので、実態以上に「悪いものは悪く、良いものは良く」映してしまう傾向がある。実像を知るためには、そのテレビが伝えた内容の水増しされた部分をそぎ落として実態を見る努力が必要だなと感じた。
この本を読み終えようとしていた時に、森喜朗・前総理大臣がトヨタの工場建設起工式・出席のためにロシアに渡り、プーチン大統領訪日の約束をとりつけるという外交上の成果を上げたという記事が新聞に載った。失言を重ねて内閣支持率がヒトケタに低迷したあとに総理の座を追われた森氏ではあるが、政治家として死んだわけではないのだなということを感じるとともに、実は、著者が最後に西村検事とかわした会話、
「そうすると今回の国策捜査をヤレと指令したところと打ち方ヤメを指令したところは一緒なのだろうか」
「わからない。ただしアクセルとブレーキは案外近くにあるような感じがする。今回の国策捜査は異常な熱気で始まったが、その終わり方も尋常じゃなかった。ものすごい力が働いた。初めの力と終わりの力は君が言うように一緒のところにあるのかもしれない」 「西村さん、僕にもそんな感じがする。体制内の政治事件だからね。徹底的に追及すると日本の国家システム自体が壊れてしまう」(345〜346ページ)
が指し示しているのは、小泉純一郎・現総理であり、同じ派閥の森前総理なのではないか・・・という気がしたのだった。

★★★★
2005、6、21読了
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