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『国防』
(石破茂、新潮社:2005、1、25)
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読売新聞の橋本五郎さんが書評で取り上げてほめていたので読んでみた。第65代防衛庁長官の石破茂氏の著書。橋本さんも書評で取り上げているように、本書の冒頭はクイズで始まる。それは、
「北朝鮮が日本に向けてミサイルの発射準備をしていることが分かった。その発射場所もわかった。そのとき自衛隊のF−15戦闘機が相手基地を攻撃するまでどのくらい時間がかかるか?」
というもの。えーっと、現場から防衛庁長官、総理大臣に連絡が行ってGOになってF−15が飛び立って、北朝鮮まで何十分ぐらいかかかって・・・・と考えると、不正解。正解は、
「どんなに時間があっても攻撃できない。」
あ、そうか、憲法上攻撃できないのか!と思ったら、それも不正解。理由は、
「F−15は、空対空で敵機を攻撃できるが、空対地で敵地を攻撃する能力はほとんどないから」
なんだそうです。そうなの?知らんかった!
そんなことも知らないで日本の防衛を語るな!という石破氏の主張は正しいと思う。
ただ、そこからあとは「えー、そうかなあ・・・」と思う突っ込み場所が満載!
たとえば、防衛庁を見学に来た子どもたちに、
「君たちは兄弟喧嘩するだろ。お父さんとお母さんも夫婦喧嘩するだろ。血を分けた兄弟でも、いくら好き合って結婚した夫婦でも喧嘩になる。国同士も同じ。喧嘩が世の中からなくなることはありえません」
って、子どもに対して言いきるのですが、子どもに「ケンカするのは当たり前」と教えるのはマズイんじゃないか?また、
「私はこの国がどうなっていくのかは、国民が民主主義というものをどこまで信じるかということなのだと思います。」
という一文に関し、私は、
「民主義は完璧ではないので『100%』という信頼は、置くことはできないと思う。それを基本に持っておかなければ、結局ファシズム・衆愚政治に陥る危険性もある大変取り扱いの難しいものであり、ただ民主主義バンザイと言っていれば良いというものではない」と思うので、「民主主義を信じれば信じるほど良くなる」ということはないと思う。仕事場でよく若いスタッフに言うのは、
「(仕事仲間を)信頼せよ、しかし(彼らが提供する情報を)信用するな」
ということ。そのぐらい疑ってかかる方が安全だと思う。
そのほかにも、彼が言うところの、
「イスラム教に民主主義が根付かないというのは彼らへの侮辱だ」
とか、非戦闘地域の解釈を巡っての、
「『治安が悪い地域』と『戦闘地域』は違うのだ」
という話にしても、「言葉の定義のズレ」があるから話がかみ合わないのではないかな。お互いに都合の良いように、その言葉(キーワード)を解釈しているように思う。
「本書は普段、防衛や安全保障に関心がない方にもできるだけわかりやすく心がけて書きました」
と「おわりに」にあるように、この本はたしかにわかりやすく語りかけるように丁寧に書かれている。内容にいろいろ意見はあるだろうが、日本という国、世界の中の日本を考える中でも、刺激を受ける本だ。

★★★
(2005、2、23読了)
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