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『人生を肯定するもの、それが音楽』
(小室等、岩波新書:2004,4,20)
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「コムロ」と聞いて「テツヤ」と答えるか「ヒトシ」と答えるかで、年がわかる。この本は後者の「ヒトシ」のもの。最後に本人が「これは紳士録ではない」と書いているけれども、コムロヒトシが出会ってきた人々、そしてその人たちとの交流について書かれているので、そういう意味では「紳士録」と言っていいのではないか。特に武満徹、谷川俊太郎、井上陽水といった人たちとの交流は興味深いところ。
なかでも「ホオー」と思ったエピソードは、和太鼓の林英哲さんが、沖縄の読谷村に三泊四日の和太鼓の合宿で教えに行ったときのこと。その場に立ち会っていたコムロさんが、「演目の最中、要所要所で休みになる太鼓の子に『君はいまは叩いていないけれども、君のなかでいっしょに拍子を感じながら休んでいないと、休みのあとの入り場所で乗り遅れるよ。休んでホッとしてないで、演奏している人に集中していなければだめだよ』。つまり、ほかの人がタンタカタンタカ叩いているときにいったん抜け、ある瞬間からまた、タカタカタカタカと入っていくわけですから。ぼくとしては演奏者としての当然の心構えを言ったつもりですが、英哲さんにすぐたしなめられました。『まあ、ふつうはそうなんだけれども、和の音楽はそういうことではない。つねにハッとか、エイヤッといってそのつどはじまる。その前までがどうであれ、エイヤッといったら、それがまた新しいはじまり。常に新しいはじまりなんだ。前との連続とは限らない。』」
と言われたというエピソードです。私も合唱をやっていますから、これまでによく指揮者から「休符のところでもただ休んでいるのではなくて、リズムを感じて心の中で歌っていなければならない」と教わってきました。そういう意味ではコムロさんと同じように感じていたわけです。しかし、この林英哲さんのひとことで思い出すことがありました。それは先日、阪神タイガースが延長12回の裏に、途中から守備固めで入った久慈、代打で出た神様・八木と続けてヒットを打って、それが赤星のサヨナラヒットにつながったことをみて思ったことです。4時間を越える長い長い試合の最後に、少しだけやって来る出番のために、こういったベテランがどのように集中力を高めているか。4時間半、ずっと集中していたのではとても体力も精神力も続かないと思います。きっと、こういったベテランは試合の勘所を心得ていて、または試合の流れを読むことができるために、自分の中でその嗅覚で持って来るべき出番に向けて集中力を高めているのだと。ベンチで休んでいる時でも、前半はきっとそれほど集中していないのでしょう。そこから出番に向けての集中力の高め方。これは我々も学ぶべきところが多いのではないでしょうか。そう、それと、この和太鼓における集中、というものとの関連を、思い浮かべたのでした。

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