ヘッダー Space
『「おたく」の精神史〜一九八0年代論』
(大塚英志、講談社現代新書:
2004,2,20)
トップページ
過去掲載分
ヘッダー

Space
この「おたく」はカタカナで書かれる「オタク」ではない。最近注目の若手(と言っても30代後半から40代前半ぐらい、つまり私とほぼ同世代)評論家と言えば、たとえば福田和也、坪内祐三、宮崎哲弥、香山リカ、荷宮和子といった人たちの名前が上がるが、そういった人たちと並ぶ名前がこの本の著者・大塚英志である。と思う。しかしこれまでこの人の著作を読んだことがなかったので、興味津々でこの400ページ以上もある分厚い本を手にした。
27章にも及ぶ1980年代の分析は「おたく」的視点からの同時代史であり、「おたく」という視点からも当然、その時代の社会現象が見えてくる、と言うよりも、読み進んでいくうちに1980年代は「おたく」の世代であったのではないかとさえ思えてくる。それは、著者を有名にした宮崎勤の事件で如実に現わされている。
そして1980年代を丁寧に振り返ることで、実は1990年代に起こったさまざまな現象は、1980年代の後始末であったのではないか。そういう意味では、つい数年前まで1980年代は続いていたのだという気さえしてくるのである。それは第四部「九0年代のなかの八0年代」を読むとさらに確信に近くなる。
『ハイスクール1968』(「読書日記50」参照)が四方田犬彦の青春誌であり原点の確認の書とするならば、この本は四方田よりも5歳若い大塚の青春誌であり、原点の確認の書と言えるのではないか。
第三部の「物語消費の時代」と第四部は、現代を考える上でお勧めである。

★★★★
Space

Copyright (C) YOMIURI TELECASTING CORPORATION. All rights reserved