第455回 番組審議会議事録

1.開催年月日
平成16年9月10日(金)
2.開催場所 読売テレビ本社
3.委員の出席 委員総数 10名
出席委員数 8名
出席委員の氏名 熊谷信昭、秋山喜久、金剛育子、林 千代、野村明雄、
阪口祐康、佐古和枝、川島康生
欠席委員の氏名 馬淵かの子、老川祥一
会社側出席者 土井共成 (代表取締役会長兼社長)以下12名
4.審議の概要 番組視聴
「報道スペシャル「まなざし」~父として母として~」
放送日時 7月17日(土) 午前10時30分~11時30分
放送エリア 関西ローカル
9月度の番組審議会は、児童虐待をテーマにした「報道スペシャル「まなざし」~父として母として~」について審議した。
委員からは「ニュースで虐待事件がよく取り上げられているが、それは特別なことではなく、自分たちの普通の家庭でも起こりえるということをうまくまとめており、番組を見て家族で話し合えるきっかけを作ってくれた」「テーマ的にあまり見たくないという印象があったが、見てみるとそんな抵抗感はなく作り方に配慮が感じられた」「いろいろなことを考えさせてくれた番組で、企画意図や構成は非常によかった。虐待も最終的には教育の問題になってくるのではないか。核家族化にも原因があり、これを補うコミュニティーのあり方や、国の取り組みなどについて取材し、ぜひ続編を作ってほしい」といった番組に対する高い評価の声が相次いだ。一方、「制作意図は高く評価したいが、大きなテーマだけに、あえて解決策を提示しなかったという方針には消化不良を感じた」「深刻なケースが中心だったが、もっと身近で軽いケースも取り上げて虐待の解決策や予防策について踏み込んでほしかった」など、今後の番組作りに向けた貴重な意見も出された。この後、7月、8月に寄せられた視聴者からの意見や抗議、苦情などについて概要を報告した。

【議事録】
(社側)本日、ご審議いただくのは7月17日に放送しました「報道スペシャル「まなざし」~父として母として~」です。この番組は、現在社会問題化している児童虐待について、岸和田市で起きた中学生の虐待事件を端緒に、幅広い取材を通して考えてみたものです。それでは、この番組の制作に当たりました報道局の高岡達之プロデューサーが番組のねらいなどについて説明いたします。

(社側)まず、制作のきっかけからお話します。今年の1月に大阪府警察本部が岸和田で、我が子に食事を与えないという虐待事件を摘発いたしました。
私どもは昨年の12月ごろから、この警察の動きを察知し、事前に容疑者周辺も含めて取材をしておりました。その段階で私どもは被害者の少年の写真を入手いたしました。この写真をめぐって顔にモザイクをして出すか出さないかの激論をした結果、ニュースでは一切使いませんでした。しかし私も二児の父親ですが、写真には言葉を失うほどの衝撃を受けました。虐待ということは常日ごろ、耳にも入ってきますしニュースにしていましたが「何もここまで」というほどの内容でした。
1月に事件になりましたが、報道局内で「我々が何とかできるわけではないが、これは一過性のニュースにしてはいけない」という声が上がりました。そしてチームを組み、今年の5月ぐらいまで虐待問題について、被害者、親、それから行政、医療関係者、さまざまな視点から取材を致しました。その内容は夕方ニュース番組で6本ほど、シリーズで紹介しましたが、その集大成を番組にまとめたいということが、そもそもの制作のきっかけです。
制作に当たって3点について留意しました。まず第1は、虐待そのものを強調する映像は使用しない。つまり「これほどひどい虐待なんですよ」ということを世に問うものにはしませんでした。児童虐待というテーマは、子育ての真っ最中の親にとっては、分かっていながら目をそむけたいニュースだと思います。深刻な実態についても、心のどこかでは「ああ、うちも」と思いながらも、「それはよそのこと」「うちはそこまでいかない」というふうに思ってチャンネルを切ってしまう。そんな人たちにぜひ見てもらうため虐待を強調せず、表現方法を工夫しました。
第2に、「解決策を我々が提示しない」ということも徹底しました。100人の親御さんがいらっしゃれば100人の回答があるのが子育てだと思います。すぐに「こうしたら」とか「こうすべき」ということが言えるほど軽い問題ではないと思いました。しかし世の中が「何とかしなければ」というふうに動いていることも事実です。それをお伝えすることで、最終的に各ご家庭が「うちは虐待じゃない」と思っていたけれども、例えば「子供に声をかけない、子どもの手を握ってやらない。そのことも子供にとっては虐待ととらえられることもある」などと、各ご家庭で番組をご覧になった後で判断をしていただこうということに致しま
した。
第3に、どうやったら一般の視聴者の方々が「我が家の問題ではない」という垣根を取り払って見ていただけるかということを演出で工夫いたしました。 紺野美沙子さんを起用したのもそこです。紺野さんご自身が8歳のお子さんの親で、かつ女優さんという、私ども一般の人間から見れば、金銭的にも、あるいは周りの支援もあるんじゃないかと思いました。しかし、子育てについては実はそうではないということを、ご自身の著作、あるいはホームページで語っておられ、出演いただきました。通常の番組ではゲストには取材したVTRを見ていただいてコメントをもらう形をとりますが、そうではなくて一人の母親として、たまたま職業が女優である親が普通に子育てをしていく過程を、うちのキャスターとしゃべっていただこうと考えました。そして、それぞれのVTRと連動をさせて話していただくことをあえて避けて、「初めてお子さんを胸に抱いたときはどんな思いがしましたか」「初めてご飯を食べたときは、初めて駆けっこで一等賞になったときは、どんな気持ちがしましたか」、そういう会話を全くVTRと関係なく収録をさせていただいてVTRの間に挟むという手法をとりました。やはりテーマとして大変重いものですから、ニュースなどで取材をしたVTRだけをつなぎますと、「重い」「つらい」「見ていられない」ということになります。それを少しでも緩和して見ていただけたのではないかと思います。

(社側)それではVTRを視聴していただきます。本日ご覧いただきますのは60分の枠で放送したものを25分程度に短縮したものです。先にお送りしております全編のVTRを思い起こしていただきながら、後でご意見をいただければと思います。

<VTR視聴>


(社側)この番組の視聴率は2.8%でございました。
それではご審議お願いいたします。

番組を見て、いろいろな考えを委員の皆さまもお持ちになったと思います。どなたからでも結構です。いかがでしょうか。

企画意図は私自身も見させていただいて見事に達成できていると思います。
つまり「虐待は、新聞やニュースでいろいろ取り上げられるけれども、それはなにも特別なことではなく、自分たちの中でも、場合によってはあり得る。そのことを各家族の中で考えていこう」という、一つのきっかけにしようじゃないかという意図はよく出ていました。
私も、いつも朝早く仕事に出て行って、夜は子どもが寝ている頃にしか帰って来ません。週末も、どちらかといえば、あんまり家にいない方です。家にいるときは子どもの面倒を多少は見ますが、やはり父親というのは、子どもをあやしてもよく分かりません。困ったら「ちょっとどうしたらいい」と、ついつい家内を頼ってしまいますし、ある意味、逃げを用意した中で手伝っているみたいなところがあります。私どものところは双子で1歳とちょっとですが、両方の家族に手伝ってもらったりして、何とかやっていっているんだろうと私自身は思っていました。ただ、番組の中で、母親の子育てについて「こんなことを24時間ずっと続けているお母さんというのはすごい」「自分やったら気が変になりそうや」みたいな高校生の男の子のコメントがありましたが、家内からは「よう聞いときや」と、言われてしまいました。それを聞きまして「ひょっとして、例えば、一日ずっと子どもを相手にしていて、虐待とは言わんけど、そんな気になることあるの」と聞いたら「虐待しようと思ったことはないし、したこともないけど、したくなる気持ちというか、そういう人もいるかもわからないなという気もする」と、こう言われたので、それを聞いて私も正直びっくりしました。そうやって2人で話して、いろんなどうするこうするとかいう話をして、その意味では、まさに企画の意図というのは達成されているのかなと思います。きょうは私以上に若いころからご多忙な方々、諸先輩方が揃っておられるので、その辺の子育てのご苦労を、ぜひ聞かせていただきたいと思っています。ただ、これは笑い話になるかもしれませんが、参考までに言わせていただければ、私ども夫婦では「子どもに行くんやったら旦那にぶつけましょう」というのが、話し合った結論でした。

こういう虐待のニュースがあまりに多いので、ちょっとうんざり、もう見たくないなというのが正直なところあります。ビデオを送っていただいたときも「今回はしんどい番組かな」と最初は思いました。でも見たらそうでもなくて、やはり制作者の方々が、われわれの気持ちをよく分かっていて、いろいろ配慮しておられるなということをとても感じました。最後に子どもたちの和やかな歌で終わるというのも何か救われるような気がしました。そういう配慮は成功だったのではないかと思います。ただ、番組内容のうち、事件や事例の分析は、ワイドショーみたいなところでも取り上げられているようなテーマだと思いました。むしろ社会、国、そして親たちが模索しながら虐待をなくそうとする取り組みについて、非常にいろいろなことを考えさせていただきました。虐待のニュースを見ると何か特異な状況というか、「自分たちとは違う」みたいに思いますが、そういう個人の責任だけではなく、国とか社会の責任があるんだということを具体的にアメリカの事例は訴えていました。しっかりした信念を持って取り組んでいるアメリカの行政の姿や、里親の状況とかを見せていただくと、行政とか社会の責任というのも大きいということも分かりました。 最近は、親族が分散してしまって、結婚して自分が子どもを生むまで赤ちゃんを抱いたことがないという子も沢山います。うちの大学でも、よく聞くのですが、一度も子どもに触ったことがないという子が結構いるんですね。そういう状態で、いきなり自分に子どもが生まれたら、やはり随分つらい部分もあるだろうなと思うし、だから高校生たちの体験学習の取り組みのように、教育という部分がすごく大きいことも感じました。いろんなことを考えさせていただいて、すごくよかったと思います。

取り上げられたテーマ、それから構成、狙い、非常に素晴らしい番組だったと思います。なかなかいろいろなことを考えさせられる内容でした。基本的に、人間というのは非常にやさしい面と虐待する面、愛情と暴力、こういったものが必ず同居していると思います。そういった中で、いい方を出来るだけ引っ張り出していくということは、教育の問題になってくるのではないかと思います。その辺、アメリカと日本とでは里親制度とか社会制度的な違いはありますが、アメリカは学校の教育の中でも、「人間とは何ぞや」ということを、まず教育して、その後で知識を教育するという教育制度になっている。だから大学の4年間というのは、大体人間心理学とか、歴史だとか、文化だとか、そういう人間性そのものを考えさせる勉強をして、その後で経済学部だとか、医学部だとか、そういったところへ行きます。そういった意味では、まず「人間性とは何ぞや」という教育が日本では一番欠けているのが、根底の問題なんじゃないのかなと思います。いきなり我々は経済学部に入っちゃうし、医学部の人は医学部へ入っちゃう。向こうだと日本でいう教養学部みたいなのを4年間やって、「人間とは何か」ということをよく考えてから専門教育をやる。あるいは小・中学校でも、その辺の根本的な教育をやっていると思います。
それから、やはり子どもは個を持っている。うちは孫が3人いますが個性がみんな違うんです。そういった意味で個を尊重するといいますか、クリティカルシンキングというか、「本当にそれでいいのかな」「自分が今やっていることがいいのかな」ということを考える力を、日本は教育できてないと思います。
小学校の本でも「テントウ虫は何を食べますか」と問いますと、三つぐらいの答えがあって、その中から答えを選ぶというのが日本の教育なんです。アメリカならば、テントウ虫を野外へ行って探して、「どんな生活をしているんだろうか」「何を食べているんだろう」と自分で考えるような教育をやっているんですね。そういった意味では、ものの考え方として、叩くか、怒るか、褒めるかしか選択肢を親が持たないということが一つの問題なのかなと私は思います。何か、自分でものを考える、あるいは今やっていることが「これでいいのかな」と反省する気持ちを常に持ってやっていくということが必要じゃないかと思います。さっきご説明があったように、自分の問題として今回のテーマを考えてくれというのが、そういうことなんじゃないかなというふうに思います。
それから子どもは、国の財産だということが出てましたが、やはり日本でも、目の輝いた子どもをどうやって育てるかということを国の一番大切な国家目標として掲げ、実行していくことが大事だと思います。ある大臣は、「外国へ行ったら、外国の子どもはみんな目が輝いているけど、日本の子どもはみんな目がトローンとしている」と話していましたが、これは我々の責任でもあると思います。やはり国の一番大きくて重要な政策は、目の輝いた子どもをどうやって育てるかということだと思います。その辺をどうしたらいいのか続編を作って訴えていっていただければ素晴らしいのではないかと思います。
それから核家族も非常に問題ですね。母親一人で全部苦労を背負い込んじゃって、あれでは大変だと思います。我が家は3軒向こうに娘がいるものですから、しょっちゅう連れてきて、みんなで面倒をみている。母親一人だけの負担ではなかったので、3人孫ができました。女性一人で子どもと24時間一緒にいたら、かなり気がおかしくなると思います。我々でも2時間、3時間子供と一緒にいたら、かなりイライラすることがありますから。そういった意味で何か核家族を補うコミュニティーみたいに、番組のように高校の人が手伝うとか、あるいは近所で何か助け合うとかいうことも必要ではないかと思います。これらについて国の政策として、どんなことをやっていくのかということも考えていく必要があります。いろいろな問題を考させてくれる大変素晴らしい番組でした。

制作者のお話を聞きまして、その制作意図は、ある程度分かりました。その意図については私も、今までの皆さん方の話と全く同様で高い評価をしたいと思います。しかし、あえて言わせていただければ、あまりにも大きなテーマであったために大変消化不良を感じました。お話しにもありましたニュース企画6本の集大成として、番組を作られたということですので、番組の中には出てなくても、放送したニュースの中で出てきている部分があったのかなという気もいたします。しかし、解決策を提示しないという方針を立てられたということについては、その方針は、ものの見事に出ておって何の解決策も出ておらない。やっぱりこれは大変寂しい結果になっているなという気がいたしました。
それと私が一番不自然に感じたのは非行ということです。非行ですさんだ高校生が育児の実習に行く姿を取材していましたが、「非行ということと虐待ということの間に、何か関係がありそうだ」とはどなたも思っています。おそらくプロデューサーの方もそう思われたんだと思います。しかし関係があるという証拠は何もありません。少なくとも番組の中では出てきてないと思います。そうすると、あの高校のだらしのない生徒たちが、子どもたちの面倒を見に行く、そしてお兄さん、お姉さん、よろしくやっておるということと今回のテーマとの間に、どんな意味があるのか、そのことは全く説明されていない。本題とは全く違う次元の話です。こんなところは、やっぱり省いてしまわないとコンフューズ(混乱)するだけであって、この番組の値打ちを下げるだけではないかなという気が私はいたしました。
ただし、青少年の非行というものが、こういった一つの仕事をさせるということで解決の手段になるとすれば、これは素晴らしいことです。現実に非行している青少年に対して、「あれをしたらいかん」、「これをしたらいかん」といって、がんじがらめに押さえつけていくという教育だけでは問題は解決しません。「自分たちの自発的な意志で何か仕事や事業をさせると、それによって更生するのではないか」という考えは私も全く賛成なんです。それは一つの別テーマとして取り上げれれば、非常に立派なプログラム、立派な番組になるだろうと思います。しかし今回のテーマとは、ちょっと違うのではないかという気が私はいたしました。また、普通の高校の生徒たちに、将来のために子どもの面倒を見る稽古をさせるというのは、これはこれで大変結構だと思います。それも一つの方法ではないかというふうに思います。しかし、このアビュース(虐待)の問題については、本当のところ何の糸口も見つからなかったというのが現実ではないかと思いますし、それだけに皆さんで、どうぞお考えくださいというのも、これは致し方のないところかもしれません。
取り上げられた里親の問題などは、あくまでも重症になった場合の治療法ですね。そうではなくて、やはり治療というのは、もっと軽症の間にすべきなんです。アメリカの制度が非常にいいというふうにお考えかもしれませんが、あれは虐待に対する対策の先進国ではありますが、アメリカという国は虐待そのものの大先進国とも言えるのです。ですからその後を追っている我々は、何も最後の重症になった人たちの対策を見習うよりも、もっと前の段階での対策を見習うべきだと思います。少なくとも、予防ということをもっと真剣に考えなければならない。その糸口というのは、残念ながら番組では出ていませんでした。手を握ってやるとか、抱き締めてやるとか、そんなことが一番大事なんじゃないかと思うんですね。そういうところへ、もう少し番組を持って行っていただければよかったなという気がいたしました。
それから連れ子の問題ですね。これは連れ子、再婚がいけないというわけではありませんが、根本的には、まだ親になる資格のないような、人間的に出来上がってない人たちが子どもを生むという問題がベースにはあると思うんで、そういったところを糸口に解決策があるのではないかなというふうに思いました。ですから、人間らしさというのを、もっと教育する必要がある。やはりこれも教育の問題ですが、そもそもは連れ子が生まれないようにする対策が一番根本ではないかと思います。
それから、母親一人に育児が任されているという問題、これは皆さん方がおっしゃったことと私は全く同じ考えで、おじいちゃん、おばあちゃんと一緒に住むというところでは、こういうことはあまり起こらないのではないかと思うんです。それも一つの解決策とか、予防策の一つだろうと思います。
いろいろ申し上げましたが、もうちょっとテーマのピントを、虐待の発生する源を断つという方法でまとめていただいたら、もっとよかったんではないかなという気がいたしました。

ビデオを見させていただいて、大変重要なテーマを取り上げられたなというふうに感じました。
私自身の子育ての体験からの感想を申しますと、やはりこういう虐待の問題というのは、みんなが抱えていて、紙一重の問題なんです。その原因を考えると、社会から隔離された閉塞感というか、子どもと母親だけが向き合う、風通しの悪い閉塞感とか、母親が子育ての大変さを誰にも理解してもらえないという、そういう一種の孤独感みたいなものがすごく親子にあるのではないかという気がします。
今、自分自身を振り返りますと、2人の子どもの育児は、やはり大変でしたが、私は仕事がありましたので、実家が全面的に応援してくれました。その助けで何とか乗り切れたと思います。それがなくて自分一人だったら、おそらくできてなかったのではないかなというふうに思いますし、男性方が思われる以上に、想像を絶する大変さがあるというのが自分の感想です。
先ほど委員が子どもを虐待するエネルギーをご主人に向けたらというようなことをおっしゃいました。私は割りと、それを実行した方だと思うんですが、2人で生んだ子を育てることは当然お互いの責任ということは主人も、すごく理解してくれました。理解してくれただけでも、その孤独感は結構癒されます。家にいるとき、たとえ30分でも1時間でもちょっと見てくれると、それだけですごく楽になります。その辺が解決の糸口になるのではないかなと思います。
今回の番組で一番心に残った言葉が、子どもは親のものであると同時に国のものであるということです。その発想がすごく大切で、次の時代を担う子ども達を、みんなで育てていくという視点を国も持たなければいけないと思います。ここまで虐待が社会問題になっているので、やはり国の第1の重要政策として解決していく、「待ったなし」でやるような重要な問題ではないかなというふうに思います。そういう意味では、この番組の中では解決法がなかなか見えてこなかったので、その辺のところは、もうすこし取り上げてほしかったかなという感じがしました。全体的には非常に大事な問題を取り上げていただいて、すごくよい番組でした。

さっき言われたように、消化不良というか、やっぱり表面だけをなぞっていたような気が私もしました。何か一つ希望の光とか、解決策みたいなものがほしかったような気がします。それと、今まで岸和田の事件を報道で見たり読んだりしていましたので、今回の番組では何か新しい事件の分析があるのかなと思っていましたが、あまりそれがなかった。たとえば、「なぜ、あの夫婦は、どっちも止めることがなく、ここまで追い込まれてきたのか」そして、「何であんなに2人は肥えているの」そういう部分を考えると、特に今回の場合のように食事を与えないということに関していえば、虐待よりも、事件の本質は、夫婦個々の性格の問題が大きいのではないかと思うんです。私自身は結構仕事を持っていましたけれども、子どもが生きがいというか、仕事から帰って来て、その笑顔を見たり、いろんなことで抱き締めたりする中で何か救われていました。そういう形でしか子どもを見ていませんでしたから、いじめるとか、そういうことは私自身は全く考えられない。ですから今、虐待という問題があるときには、親の個々の性格に欠陥があるのではないかと思ってしまいます。その辺を、もうちょっと追求していただいたら、これは虐待なのか、それとも違うのかいうような判断を、特に子育て真っ最中のお母さんに示すことができたと思います。
それと、みんなで育てようという気持ちに関してですが、実際に子どもが社会や国の宝ということを、どこまで個々人が理解できているかということだと思うんです。それをしっかりと植え付けるためのコンセプトがほしかったかなと思います。
主人に不満をぶつけるということもあると思いますが、私は、男と女というものがいても、基本的には育児は愛情の注ぎ方とか女性の役目だと思うんです。自分が子供を育てているときには、いろんな思いを飼っている犬とか猫にぶつけていました。「大変やな子どもを育てるのは、お前も大変やな」なんていう形で。本当に猫なんか見ていたら、その4匹とか5匹とか生まれている中で、あっち向いて、こっち向いてというのを自分で首をつかまえて元へ戻してきて。また食べ物を与えると、自分は食べないで、まず子どもに食べさせている。もちろん協力という形で出来ることは男親もしなければいけないけれど、番組では、やはり女性が子供を育てているんだということを、もうすこし強く訴えていただいた方がよかったように思います。途中で荒んだ高校生が出てきて、子どもを育てる実習に行っていましたが、あそこだけは、私自身も違和感がありました。あれには何の狙いがあったのか。もし幼稚園なり保育所なりに子どもを預けていたとしたら、ああいう人たちに子どもを見てほしくないというのは私自身の素直な感想です。
車の免許を取るときには、テストがあるんです。母親になるためのテストというものはありませんが、もうちょっと女性に、これから子どもを生み育てていくというしっかりとした考えを植え付けるようなコンセプトを打ち出していただけたらよかったのかなと思いました。

少し警戒をしながら、暗い、重いテーマだと思って見はじめたのですが、そんなに嫌な感じを持たずに60分を見終えることができました。歌で終わるエンディングなんかもさわやかだったですね。制作にあたって留意されたポイントがこの番組を見やすい、聴きやすいものにしたのだと思います。
それから個人の問題として、この番組の受け止め方は千差万別であるし、また、それであっていいと思います。これを一過性の虐待のニュースとしてではなくて、むしろ社会的なテーマとして取り上げたという、その着眼点というのは、これは素晴らしいことだと思うんです。広がりのある番組になっておりました。
それはいいと思うのですが、先ほどから皆さんのご指摘もあるように、企画意図である問題提起が、こなれ方が十分でないために、その意図されたとおりの問題提起となったかどうか、重いテーマがこなれているかどうか、その点は少し疑問に感じました。
それから結論的には、ほかの方々もおっしゃっておられたように、さまざまな家庭での教育、特に初等、中等の段階での教育、それから社会的な教育、もっと大きなところではいろいろな宗教的なものとか、結局は教育というところにテーマが返ってきてしまうんですね。それはそれでいいかと思いますが、この番組の中では救いというか、啓蒙的な予防策が、もう少し示されてもよかったのではないかと感じました。
まあ、非常に意欲的な番組だと思いますし、高い評価をするべきだと思います。

ありがとうございました。
私も見せていただいて、嫌な思いとか、深刻あるいは凄惨な感じというのはほとんど受けなかったですね。逆に申しますと、作品としては、新聞報道とか週刊誌の記事などから受ける衝撃を超えるような衝撃は、視聴者には与え得なかったのではないかなと思います。
しかし、問題提起は適切ですから、みんなが考えさせられたと思うんです。アメリカの取材もしていらっしゃいますね。これは虐待対策先進国のアメリカを国や制度を見るという、そういう目的で取材されたように伺いました。私はアメリカに滞在中にいろんなことをアメリカから感じ取ったり、学んだりしましたが、非常に印象的なことの一つは、アメリカの家庭における子どものしつけの厳しさでした。私が家庭の中まで親しく入り込んでお付き合いをしたようなお家は、アメリカでは知的階級に属する人たちだったと思うので、全体は分かりません。しかし、両親の厳しいしつけ、3歳、4歳の男の子に父親が紳士のエチケットを厳しく教える親の態度ですね、これはやっぱり大変な国だと思った印象があります。そういう外国の家庭における教育やしつけの実態なども紹介いただければ、もっと参考になったかと思います。例えば、言うことを聞かすために、あるいは、しつけるために冬の夜中に家の外に出すというようなことも、しつけだと思ってやる親は今でもいるんです。だけど、そんなときでも、しつけと思ってやっているまともな親は、子どもの様子をとにかく家の中からちゃんと見守っています。ほったらかしということにはしておりません。そういうしつけと虐待とは違うと思います。本当に虐待といえるのは、子どもの体に、たばこの火を押し付けたり、風呂の中に放り込んで、場合によっては、そのまま殺したり、食べ物は与えないで餓死寸前にもっていくとか、これは虐待なんですよ。ですから、親のイライラからくる感情的な暴力としつけとの境目、厳しいしつけと虐待の境目というのは、分からないようですけれども、本質的にはっきり区別はできると思います。
そうすると大体、本当の意味での虐待というのが、なぜ今、日本で大きな社会問題になってきているのかということを徹底的に考えなければいけないと思います。まともな人間は、まともな社会がつくるものです。狂った人間は結局は、おかしな社会がつくるわけで、そういう社会の中で非常に重要なウエートを占めるのが、やはり学校教育なんです。番組の中で非常に示唆的なのは、授業中に携帯電話はかけるわ、先生が注意しても態度はなっとらんわ、外を見てるわ、寝てるわと、あれをあのまま放置しながら授業をしているということを、とんでもない異常な状態だと思わないといけないんです。戦前戦中のしつけというのは、家庭の中でも、社会の中でも、学校教育の中でも、今と全然違ったと思います。態度の悪い生徒を張り倒すくらいやらなければ直らないのではないかと。ところが教育委員会でも、よく問題になったのは、先生が、つい感情的になって叩くと、これは懲戒処分です。これは「体罰はいけない」ということが規則で書いてあるから救いようがないんだということで、情熱的な先生であろうが、少しおかしい先生であろうが一律に懲戒処分です。また、夜間高校というのは、昼間働いていて昼間の高校に行けない子どもたちのための学校だと思っていたのが、そんな子供は今はほとんどいない。昼間、家を出るのが嫌で、暗くなったら出て行く子どものために夜間の高校があるんだという話も長い間教育委員をやりながら気がつきませんでした。そういう世の中はおかしいじゃないかという気がしてなりません。今度はいちど、子どもの教育のため、体罰の是非などに向き合うテーマもやってはいかがでしょうか。

(社側)ありがとうございました。本日いただきました貴重なご意見は、また後日、事務局の方から全社に向けて周知をさせていただきます。また、番組づくりの参考にもさせていただきます。
それでは簡単に7月、8月に寄せられた視聴者の声について視聴者センター部から説明をさせていただきます。

(社側)
ご報告いたします。
7月、8月ともに8,000件を超える非常に多い水準でした。7月には「ホテリアー」という韓国ドラマ、今ブームになっておりますが、これの放送時間の問い合わせがありまして、1,400件以上、これ8月も続いておりまして、こういった問い合わせが非常に増えたのが、この7月、8月の特徴です。
それと8月、意見・苦情の中で『犬夜叉』という、これは月曜日7時から放送しておりますアニメですが、これが9月に終了するということに対しての苦情、それから放送継続の要望がかなり多くなっているといったところが特徴です。

(社側)
では最後に次回の開催日の予定を確認させていただきます。
次回は10月8日、金曜日、午前11時から、読売テレビ本社のこの場所、役員会議室での開催を予定しております。ぜひご出席のほどよろしくお願いいたします。本日は以上でございます。どうもご審議ありがとうございました。


おわり
  • 平成16年度読売テレビ番組審議会委員
  • 委員長    熊谷信昭   兵庫県立大学名誉学長、大阪大学名誉教授
  • 副委員長    馬淵かの子   兵庫県水泳連盟   顧問   元オリンピック日本代表
  • 副委員長    川島康生   国立循環器病研究センター   名誉総長
  • 委員    秋山喜久   関西電力株式会社  顧問
  • 委員    金剛育子   能楽「金剛流」宗家夫人
  • 委員    林  千代   脚本家
  • 委員    阪口祐康   弁護士
  • 委員    佐古和枝   関西外国語大学教授
  • 委員    北前雅人   大阪ガス株式会社   代表取締役副社長執行役員
  • 委員    谷  高志   読売新聞大阪本社   専務取締役編集担当